巨大洗面器(福岡県北九州市) | コワイハナシ47

巨大洗面器(福岡県北九州市)

北九州市に住む現在八〇歳の千津子さんは、三〇年ほど前に変なものを目撃した。

二月半ばを過ぎた、梅の咲く時季だった。子どもたちはまだ学校から帰らず、夫も会社へ行っていて留守だ。千津子さんは洗濯物を取り込むついでに、庭から土手を眺めていた。

土手に梅の木がたくさん植えられており、ちょうど満開だったのだ。真ん前に土手の斜面が立ち塞がっているのがこの家の欠点だと思っているけれど、梅の時季だけは別だ。

その日は快晴で、午後三時を過ぎても空が明るかった。次第に日が長くなってきた。洗濯物を家の中にすっかり取り込んでしまっても、庭を去りがたく、格好ばかりは掃除しながら、景色を愉しんでいたところ、土手の向こうから巨大なアルマイトの洗面器が現れた。

大きな白金色の洗面器が、ゆぅるりゆるりと回転しながら浮かんでいる。

青空を背景に、土手の数メートル上を飛んで、こちらへ接近してくる。

と、思うと加速して、みるみるうちに庭の真上に来た。千津子さんは口をあんぐり開けて、洗面器の底を見あげた。足もタイヤも窓も何も無く、ツルツルしていそうで円かった。

洗面器は高度を上げて土手の方へ旋回すると、遥か上空に昇って見えなくなった。

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