久下田村の化け猫(栃木県) | コワイハナシ47

久下田村の化け猫(栃木県)

「僕は昭和四五年生まれで、今年(二〇二〇年)五〇歳になります。

二〇年近く前に、そのときまだ存命だった父方の祖母から聞いた話です。

幕末の頃、祖母の曾祖母の家は下野国の久下田村という所で百姓をやっていたんですが、その村では、正午を過ぎると村中の猫が姿を消してしまったそうなんです。

猫は鼠を喰いますから、村のどの家でも猫を飼っていたものですが、それが綺麗さっぱり午後になるといなくなる。

それで、祖母の曾祖母は、好奇心旺盛な若い娘だった時分に、飼っていた猫を尾けてみることにしました。

猫は尾けられていることに気づかないようすで、トコトコ歩いていきました。

やがて村境の森の奥に行くと、ある一本の大木の前で立ち止まりました。

隠れてようすを窺っていたら、その木の周りに、後から後からたくさんの猫が現れて、着いたそばから次々に後ろの二本肢で立ったかと思うと、前肢を振り振り、木を取り囲んで踊りだすじゃありませんか……。

怖くなったので、彼女は村に駆け戻って森で見たことを家族に伝えました。

すると、父が『それは化け猫だから退治しなければいけない』と言って、戻ってきた猫を捕まえて袋に詰め、袋の口を縄でしっかりと縛ってしまいました。

そして父を先頭に家族全員でぞろぞろ歩いて近くの川へ行き、猫を入れた袋が遠くまで流されていくのをしっかり見届けてきたのですが、家に戻ると、家の中から『ニャー』と猫の鳴き声が……。

見れば、たった今、川に捨ててきた飼い猫が上がり框に座っていました。

しかも一本の毛も濡れていなかったので、化け猫には人の力では敵わないと皆で悟って、好きにさせておくことになりました。

その猫は、それから二〇年近く家にいましたが、あるとき、ふっと姿が見えなくなってしまったということです。

お伽話みたいな話ですけど、僕の祖母は、『ばあちゃんもかあちゃんも正直な人だったから本当にあったことだよ』と最期まで信じておりました」

下野国の久下田村は栃木県真岡市の南部にあたり、現在の町名は「境」といって、今でも町の真ん中を大谷川の支流が流れている。

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