白い腕(東京都町田市) | コワイハナシ47

白い腕(東京都町田市)

東京都町田市の某大学は、創設者が小田急電鉄に土地と駅舎を提供してキャンパスの入り口に駅を造らせたという経緯があり、敷地のど真ん中が線路で分断されている。そこで橋を架けて敷地の左右を繋げてあるのだが、橋から電車に飛び込む学生がたまにいて、彼らの幽霊が大学のそこかしこに出没するという噂がある。

約二〇年前の九月下旬のこと、この大学の演劇学科の二年生だった愛さんは、来月の文化祭公演を控えて準備に追われていた。

愛さんは舞台照明を学んでおり、文化祭公演でも照明係を担当していて、その日も同じ照明係の後輩と二人で、学校内の稽古場兼舞台の袖にある小部屋に籠って作業をしていた。

ここ数日は深夜まで作業しており、終電で帰ったり、大学の近くに住んでいる友だちの家に泊めてもらったり……。今日も夜遅くなってしまったな、と、思っていると、

「鍵、借りまぁす」

と、若い女の声がした。

見ると、小部屋のドアを少し開けて、その隙間から色白でしなやかな腕がにゅーっと出てきた。そして、ドアの横のフックに掛けてあった鍵を掴むと、素早く引っ込んだ。

それは高価な機材がしまってあるロッカーの鍵だったが、演劇学科の仲間が必要があって取りにくることが度々あったので別に気にしなかった。鍵は帰る前に必ず元のフックに戻しておく規則だから、しばらくしたら誰か返しに来るだろうと思っていた。

ところが誰も現れないまま帰る段になってしまった。帰る前に舞台前に集合して点呼を取るのだが、そのとき全員に確認してみても、鍵を持っている者が誰もいなかったばかりか、そもそも鍵を借りたと言う者が一人もいなかった。

そして件のロッカーは施錠されていた。これでは機材が使えない。大目玉を食らうことを覚悟して、翌日、舞台顧問の教授に相談した。

教授は愛さんたちを叱りながらも、準備のために、とりあえずマスターキーでロッカーを開けた。すると、昨夜の鍵が中にあった。

ありえないことが起きたのだ。

そのときになって、愛さんは、昨夜の腕が肩の辺まで肌を露出させていたことに思い至った。準備に当たる演劇学科の学生は「黒子に徹する」という意味で、全員黒い長袖のジャージを着ているのに、あの腕は……。

愛さんが、このことを一緒に「腕」を目撃した後輩に伝えたところ、後輩は「私、ときどき視ちゃうんですよね」と呟いた。

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