石切の下宿屋であった話(大阪府) | コワイハナシ47

石切の下宿屋であった話(大阪府)

世間は刀剣ブームだと聞き、先祖に刀鍛冶がいるので、その辺りのことを詳しく書いてやろうと資料をずっと集め続けている。

中でも特によく調べているのは、備前長船横山祐義という先祖の刀鍛冶なのだが、戦火や水害や台風の影響で資料がかなり失われていて、なかなか上手くいかない。

蝸牛の歩みのように進めている作業の最中、時々奇妙なエピソードを耳にすることがある。これは資料作成に携わってくれた、社労士さんが紹介してくださった、郷土史家の方から聞いた話である。

「戦後、いやまあ正直言うと戦前も食えなかった人が殆どやってんけど、刀鍛冶では食えん人がさらに増えて、刀から包丁や鋏の鍛冶をするようになる人も多かった。

あんたはんの曾おじいさんと、勝さんという刀鍛冶が、堺から鍛冶師呼んで勉強会みたいなことを広島でやらはった記録があってね、それに参加した刀鍛冶の忠司さんって人がおって。その勉強会がきっかけで、刀より時代は包丁やと思ったんか、それとも包丁作るんが刀より面白かったんかは謎やけど、忠司さんは刀鍛冶を辞めて包丁作りに専念しようと、広島から大阪に出て行かはったんや。

それで、俺の親父が当時石切で下宿やっとってね、道楽で刀剣収集の趣味もあってんやけど、そんな親父の下宿に忠司さんが柳行李一つ持ってやって来たんや。石切にも鍛冶師がおったからやろね。

忠司さんは、親父に刀の扱いがなってないって指導してくれたしたもんやから、お礼に食事ご馳走したりする仲やったらしいね。お酒が好きな人やったらしいからよう飲ましたらしいわ。

そんな親父の下宿に、秋の夕暮れ時に、紫色の風呂敷を抱えた男が、お願いがあります、お金は払うんで話だけでも聞いてくださいって頼み込んで来たんや。

親父は、なんや押し売りかいなって思ったらしいけど、その男はちょっと強引にね、ちょっと中に上がらせて貰いますって、勝手に玄関あがって、まっすぐにね、忠司さんの部屋へと向かったんやて。

そして、ほら、当時は鍵みたいな邪魔くさいもんはかけんみたいなのが常識やったから、忠司さんの部屋に入ってね、ドカッと座り込んだんやて。

そこに忠司さん寝てはったらしいけどね。暇やったんかな。親父もそこの部屋に入ったらね、男がはらりと風呂敷を解いてね、中から坊主頭の人形の首が出て来たんやて。

性別は分からへんかったらしいけど、でも一目見てちょっと色っぽいなあと感じたらしい。そいで急に上がり込んできた男がねえ、これを本物の生首にしたいんですって、忠司さんにお願いしたんやって。

忠司さん、割と調子ええとこあったらしいから、注文受け取った包丁を取り出してちょんって、その首の断面に当ててやってんて。

そしたらその男がねえ、真剣を当てて欲しいって言いだしたんやて。親父それ聞いて、おもろい!やろやろ!って、コレクションしてた日本刀バタバターと何振りも持ってきて、大喜びで切る「つもり」や、切る「ふり」を何度もしたんやて。

変な話やろ。その中で、もう一回忠司さんが研いだばかりの包丁当てようとしたら、男がまたそれは違う、真剣でやって下さいって。

そいで、ねえ、なんかぐたぐたやってたら、約束もなんにもしてないのに、急に勝さんがやって来てね、なんも言ってないのに懐から短刀を出してね、そこの生首の人形に勝さんがすっと刃を当てはったらしいね。

親父か誰かが『お見事』って言葉を言うん聞いて、口ん中に血の味がじわあっとしたらしい。

昭和の三十年か四十年頃の話かなあ。俺は生まれてたハズやけど、お母はんのところは家が別で、そこにおったから、その情景は見てへんねんけどね。たまに親父が来たら話してくれて、代金は五十円玉が三枚ほど入ったぽち袋が置いてあったって聞いたかな。

にしても、人形の首をなんに使うつもりやってんやろうなあ。それは親父に聞いても分からへんかった。勝さん、その時の短刀置いていかはったらしくってね。いや、親父が無理言うて買ったんやったかな。

人形の首を切った「つもり」の短刀を握ったらね、口の中にいつでも血の味がするっていう話もなんべんも聞いた。忠司さんは悔しそうな顔してた、ってのも親父は言うとったなあ。敵わへんって思うところがあったんかな。

勝さんと親父と一緒に京都の亀岡にも行ったよ、あのあたりにあんたの曾おじいさん住んではったやろ。本人には会われへんかったけど、残ってた刀は見たよ。ほんまは高齢やったから本人が打ってなかったって話も聞いたけどね、ほんまかどうかは分からへん。

刀はね、家の中にはあれへんほうがいいよ。親父も言っとったけどね、変な人を招きやすくなるから。〝魔〟を断つ刀もあるんやろうけど、逆もやっぱりあるんやろうね。

日本刀があると、これほんまに人間かあ?って疑うような人が急に来たらしいよ。

全身ぬらーっと濡れてる子供が夜中に手つないで、下宿の玄関先に立っとって、おっちゃんお母ちゃん呼んできてーって声聞いたとか、素っ裸のおっさんが来て、アユ釣り行きましょうと言って小便玄関先でされたとか、大きな熊ほどのサイズの犬が物干し台の傍に夜おったとかね……」

「石切らしい怪談話もあってな、日本で三番目に大きい大仏って駅近くにあるやろ。あれが夜中に歩いとったって話は、小さいころに何べんも聞いた。一回も見たことないけどな。

知っとるか?あの大仏な、精力ドリンク「赤まむし」で有名な阪本漢方製薬四代目が建てたんやで。百度参りはな、夜もしてる人ようさんいてな、昔はもっとすごかった。今と違って、誰でも簡単に病院かかれるような世の中やなかったからやね。

聞いた話やねんけど、夜に石切神社で百度参りしてはる人らの頭上を、ばっさばっさと、一メートルくらいの大きさの天狗が三羽ほど飛んどったことが何度もあったんやて」

こういう話を聞いても、あの石切ならあるかも知れないと思ってしまう。

石切周辺は、取材に行けば不思議な話が、まだまだざぶざぶ出てきそうな気がする。

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