敷地が東京都稲城市と神奈川県川崎市にまたがっている某遊園地には、昔から幽霊が出没するという噂がある。いつ始まったのかわからないが、私が子どもの頃から「あそこのお化け屋敷には本物の幽霊がいる」と囁かれていた。
開園したのは一九六四年だが、遊園地が出来る前は多摩丘陵南部の谷に至る湿地帯だったようだ。広い敷地の中核を成すエリアに「ヤ(谷間)」に「クチ(入口)」で「谷の入口」という意味になる地名が付いていること、周囲に湧水が豊富であることからそのことが推察できるのだ。
私鉄駅員の佑真さんによると、この遊園地の利用客が乗り降りする某駅には、笑う女のお化けが棲みついている。
件の駅には、駅舎の二階に駅員用の更衣室と寝室がある。駅員が出勤して、制服に着替えるために階段で二階へ上がろうとすると、ふいに誰かに見下ろされているように感じる。
そこで、何の気もなしに階段の上を見ると、そこに若い女が立っていてニタニタ笑いながらこっちを見ている。
本来は綺麗な顔立ちなのかもしれないが、生理的な嫌悪をそそる箍が外れたような笑顔なので思わず一瞬目を背ける……と、再び見上げたときには誰もいない。
また、同じ女が、寝室から出てきた駅員の後をつけて歩いてくることもある。
それを見た別の駅員が「あっ!」と叫ぶと、女は叫んだ者の方をゆっくりと振り向いて、ニタニタニタニタッと嫌な笑顔を見せると同時に、スーッと薄くなって煙のように消える。
──多くの駅員が頻繁にこういった体験をするので、「墓地跡の駅に次いで怖い駅」として沿線の駅員たちに知られるようになってきた。
幽霊なのか妖怪なのか正体はまるでわからないが、いつも同じ姿で現れて、その笑顔は誰が見ても気持ちが悪いものなのだそうだ。
そして、女が何を着ていたのか、後になると思い出せないのだという。
佑真さんの先輩駅員は、この駅の裏を流れる川が怪異を招いていると言ってるとか……。
川の名前は五反田川。かつては多摩丘陵の森の湧き清水を水源とする自然河川だったが、現在はほぼ全流域でコンクリート護岸化されている。
土地の水神が人間共に祟っているのかもしれない。そんな捉え方も出来そうな話だ。