赤い人形の部屋(愛媛県松山市) | コワイハナシ47

赤い人形の部屋(愛媛県松山市)

赤い人形の部屋

当時三二歳の会社員、春夫さんは、社長にお供して雑居ビルの視察に行った。

会社と同じ松山市内にあって、ビルの管理者はかねてから社長と面識がある女性経営者だという。社長は自社製品の販促イベントなどを催すのに適した物件を探していた。

訪ねてみれば、一階は生鮮食品や日用品のストア、二階は某球団選手のオフィスになっていて、三階から最上階の六階まで空いているという。どの階も標準的なコンビニの三倍程度の床面積があり、水回り以外はワンルームの造りだという説明を最初に受けた。

築年数が経っていそうではあったが、立地条件がとても良かったので、社長はすっかり借りる気になり、六階から順に見せてもらうことになった。

ビル管理をしている女性経営者に鍵を貸してもらって、春夫さんと社長の二人でエレベーターに乗り、六階を訪ねると、採光が悪くて薄暗いが、広さは充分で、まあまあだった。

次に五階へ──エレベーターの扉が開いたら、いきなり目の前に山積みのダンボール箱が立ち塞がった。「なんだこりゃ?物置みたいじゃのぉ」と社長が呆れた。

とりあえず箱の山を迂回して室内に足を踏み入れた。そこにも物置じみた光景が広がっていた。以前はどこかの事務所だったのだろうが、事務機器もデスクも置きっぱなしで、夜逃げでもしたように見える。ここも陽が差し込みづらいようで影が濃い。

そんな部屋の真ん中に、セルロイドの人形がぽつねんと打ち捨てられていた。

今や骨董的な価値がありそうな昭和時代の人形だが、ダルマに短い手足を付けたようなフォルムと異様に大きな丸い頭が奇形的で、胴体が毒々しい赤色に塗装されており、悪趣味に感じた。なんだか気持ちが悪い物だ。しかも偶然だろうが、そいつは仰向けの姿勢のまま、顔だけ春夫さんたちの方に向けていた。

侵入者に気づき、首を回して注視した……というふうに想像できてしまうのだった。

そのとき社長が「ここ不気味やない?」と話しかけてきた。

すると春夫さんが返事をするより先に、突然、部屋がガクンと暗くなった。

と、同時に人形が赤く輝きだした。その赤い光に照らされて、部屋の奥の闇に包まれた辺りから大勢の人がドワーッと湧き出してきた。社長が悲鳴をあげてエレベーターへ駆け込んで「早う来んか!」と怒鳴った。言われなくとも春夫さんも急いでいた。

「ヤバいヤバいヤバい!」と叫びながらエレベーターに飛び乗って「閉」ボタンを連打した。

ドアが閉まる寸前に、グレーの作業着を着た脚が見えた。すると頭の中に黒縁眼鏡をかけた男の姿が浮かんだ。その直後に社長が「五〇ぐらいのオッサンがおまえの後ろにピッタリ張りついとったわい」と言った。聞けば、そいつは黒縁の眼鏡を掛けていたという。

巫女の息子

視察に行ったビルの五階で怪奇現象に遭った三二歳の会社員、春夫さんと社長の二人は、ビルの管理者である女性経営者に、自分たちが目撃したものについて説明したが、彼女は「だから何?」と言いたそうな口ぶりで「五階は出るんよ」と、そっけなかった。

乗ってきた車に戻ると、社長は悪寒がすると訴えて、助手席でブルブル震えだした。

春夫さんもハンドルを握ろうとして、自分の手が震えているのに気がついた。

腹の底から激しい怖気が湧いてきて震えてしまうのだ。内臓が氷に変わってしまったように感じる。震えが止まらないと、まともに運転できない。

困った、と、思ったら、携帯電話に着信があった。

会社のアルバイトで、採用面接のとき「巫女の息子です」と自己紹介した若者がいた。

それが急に春夫さんに電話を掛けてきたのだ。

「社長を連れて、近くのお寺か神社へ、はよ行って!」

「えっ?えぇ?」

「お二人が悪い霊に遭うたのがわかったけん!放っておくとマズいヤツです!視察に行かれましたよね?そこで自殺したオジサンが悪霊になって憑いとります!」

春夫さんと社長は、さっき黒縁眼鏡を掛けた五〇代ぐらいの男の霊を視てしまったばかりである。

「……ど、どんなオッサン?」

「縁が黒い眼鏡掛けた中年の人じゃ!とにかく急いでお寺へ行ってつかぁさい!」

そこから目と鼻の先に小さな寺があった。社長と二人でガタガタ震えながらそちらへ向かうと、山門の前に立った途端に震えが止んだ。

翌日、例の巫女の息子に事の顛末を話したら、滔々とこう述べた。

「黒縁眼鏡の男は以前あそこで首吊り自殺しとります。ドワァと湧いて出た他の霊は、集まってきた浮遊霊か何かじゃ。春夫さんの方を見よった赤い人形の正体は判らんが、こいつがいちばん邪悪なんやないかな?でも、どれも寺や神社に行ったら自然に祓われる程度の力しかなくて、幸いでした」

「……なんで、そんなことがわかるの?」

「ただの直感です」

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