国道十号線(大分県) | コワイハナシ47

国道十号線(大分県)

深夜、木藪君は大分市内に向けて車を走らせていた。、

時刻は午前二時過ぎ。

高速を下り、見知った道に出る。すれ違う車もない。

空いた道路を進みながら、気だけが逸る。

早く目的地に辿り着きたかった。点滅信号、赤信号。全てが煩わしい。しかし安全運転を心がける。焦っているときこそ気をつけろ、だ。

(しかし、今日に限って)

その日は、出張で宮崎県の端に泊まっていた。

そこに、母親から「早く帰ってき。急に……」と言う電話が入ったのだ。

予想外の連絡は、まさに火急の用事であった。

何度目かの曲がり角を抜けると、大きめの道路に出た。

見覚えがある。

国道十号線だった。

しかし、この国道を使うと目的地には遠回りになる。

(間違ったか)

一度脇道へ入り修正を行う。

だが、その後も繰り返し国道十号線に出た。

(慣れた道なのに)

焦りのせいで間違えてしまうのだろうか。

一度路肩へ止め、カーナビを付けた。こういうときは機械の指示に従うのがベターだ。

〈次の交差点を右に……〉

案内に沿って進んだが、途中が自分が通ったことのない道になった。

結果、また十号線に出る。

カーナビですら間違えるのはおかしい。異常だ。

ウインカーを点け、もう一度道路の脇へ停車する。一度案内を切ろうとナビへ腕を伸ばした――そのときだった。

助手席側の窓が叩かれた。

完全に油断していたので思わず声を上げてしまう。

警察だろうか。それとも違う誰かだろうか。

叩かれた窓の方に顔を向けたが、誰もいない。

今度は、歩道側後部座席辺りの方から窓を叩く音が聞こえた。

確認するが、何の姿もない。

恐る恐る外へ出て、歩道に上がった。

窓を叩いたような人物は見当たらない。

ただ、ウインカーの明滅に照らされて、真新しい菊の花の花束とお供え物があった。

(こげんもの、あったか?)

普通なら運転中でも気がつく。しかし覚えがない。急に背中が寒くなる。

慌てて車に飛び乗り、逃げるようにその場を後にした。

途端に、カーナビが案内を始める。

〈次の交差点を左〉

設定を終えていたか。それとも解除し忘れていたのか。記憶にない。

ルートそのものは間違えていないようだが、無視をして自分の思うがままに進んだ。

その後は一度も国道十号線に出ることなく、何とか目的地に着いた。

時計はすでに午前四時前を表示している。

どれほど道に迷っていたのか。いや、今はそんなことを気にしている暇はない。

車を飛び出し、目の前の建物――産婦人科医院へ飛び込む。

彼を見つけた母親が叫んだ。

「あんた、遅かったぁ!……さっき」

妻と、初めての子供が命を落としたのは、数十分前だった。

後に分かったことがある。

妻と子供がこの世からいなくなる前日、彼の友人もひとり亡くなっていた。

交通事故だった。

現場は、あの夜、菊の花が飾られていた場所だった。

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