関西在住の澄夫さん(※)は全盲だが、子どもの頃は目が見えていた。そのため、目明きだった頃から付き合いのある友人たちには特別な思い入れがある。
彼らだけが顔を思い浮かべられる友人だからだ。
なかでも中学校の同級生だったヨシオとユリの二人のことは大切に想っていた。
三人とも五十を過ぎてしまったから、ずいぶん長い付き合いになる。しかし、ユリは頻繁に電話を寄越すし、ヨシオは関東に住んでいるというのに、たまに遊びに来てくれる。
この三月にも、ヨシオが訪ねてくることになっていた。正月に会ったとき、「こんど一緒に京都に行こう」と誘ってくれたので、二人で京都の名所巡りをする計画を立てた。
「俺の家に泊まればいい」と言うと、「そうさせてもらう」とヨシオは応えた。
嬉しそうな声だった。少年時代の彼の日焼けした笑顔が自然と胸に描かれた。
ところが、一月末、ユリが泣きながら電話をかけてきて言うことには、ヨシオが死んだ、と。心筋梗塞による突然死だった。
お通夜と告別式が済んで、やがて四十九日を迎えた。
そういえばもう三月だ、と思って、ハッと気づいた。
なんと、命日から四十八日目にあたる今日は、ヨシオが来るはずだった日だ。
こんな悲しい偶然があるものなのか。
ユリならば、ただの偶然と嗤うことはないだろう。
一緒に涙を流してくれるはずと思い、スマホのSiriに「ユリに電話して」と命じたのだが……。
「ヤマシタヨシオさんについてお調べします」
ヨシオの姓はヤマシタ。
うっそりとした寒気を覚えながら、スマホを再起動した。
すると無事に、ユリに電話をすることができた。そこで今起きたことも話したところ、
「そのままSiriに調べさせたら、ヨシオの今の連絡先を提示したのかしら?」
と、ユリが言った。
そうかもしれないと思った。おそらくヨシオは、話したがっているのだろう。
その夜、夜更けにスマホが鳴って目が覚めた。通知を切って寝床に戻ると、隣から男の鼾が聞こえてきた。
──ヨシオ。来たのか。
※第一話と第二話に登場した澄夫さんと同一人物です。