金縛り(東京都練馬区) | コワイハナシ47

金縛り(東京都練馬区)

一九七三年生まれの昭さんが中学三年生のときと言えば、今から三二年前のことになる。

九月に入ったものの夏がぶり返したような陽気が続いていた時分だった。昭さんの家は東京の練馬区に父が建てた純日本家屋で風通しが良かったが、その晩は窓と襖を全開にしても蒸し暑くて寝苦しかった。

夜の一〇時頃、昭さんと兄は共有している和室に蒲団を並べて眠る態勢に入った。

兄はすぐに寝息を立てはじめた。昭さんも眠気を覚えながら目を瞑った。……今しも眠りの中へ滑り込みそうだと感じていたら、金縛りに掛かった。

昭さんは小学校の頃にオカルト的な内容を含む超科学系の雑学本を学級文庫で借りて熱心に読んだ口だったので、金縛りは科学的に解明されている脳や神経のトラブルなのだと知っていた。

また、これが初めてでもなく、一一歳ぐらいから度々、金縛りに遭っていたので、このときも最初は「またか」と思っただけだった。

じっと耐えていれば普通の睡眠状態に戻れる……はずだったが、今夜に限って何か変だ。

横たわったまま部屋全体が見渡せるのだ。意識が身体から離れて空中に浮遊しているような感じだ。「意識の眼」とでも呼ぶべき感覚を手に入れたというか……。

キョロキョロと辺りを見回していると、やがて、襖を開け放った戸口に緑色の光が差してきた。どんどん輝きが強まり、程なく光の核心が姿を現した。

蛍光色の緑に輝く、大人の等身大のノッペラボウ。素っ裸で髪も目鼻も口も無い。手足の指も見当たらないが、人の形をしている。

見た瞬間、何の根拠もなく、あれは父方の祖父だと閃いた。

父方の祖父は昭さんが生まれる前に亡くなっていたのだが……。

そう直感した途端に、緑の人はシューッと縮んで消えてしまった。

そのときには身体の自由を取り戻していたが、以降、彼は金縛りを恐れるようになった。

──ちなみに金縛りは医学用語では《睡眠麻痺》と呼ばれ、科学的に解明されている現象なので、昭さんの認識は正しい。大脳が休むノンレム睡眠と脳が活発に働くレム睡眠が、人の眠りには交互に訪れる。レム睡眠中は脳は活動するが、身体は活動を休止する。このとき脳が目覚めると金縛りが起きる──。

シェアする

フォローする