似島(広島市南区) | コワイハナシ47

似島(広島市南区)

瀬戸内海の南に似島(にのしま)と呼ばれる島がある。安芸小富士と呼ばれる山や天然の砂浜は正に風光明媚。魚釣りや海水浴、みかん狩りなど観光地としても楽しめる穴場スポットだ。

そんな似島には『臨海少年自然の家』という、多くの小学校が野外活動として使う場所がある。私の友人も小学五年生の頃、この場所に学校行事として訪れた。

彼女は幼い頃から身体が弱く、学校も休みがちだったという。そのせいで三泊四日の野外研修も回避すべきと親から言われたが、どうしても友達との思い出が作りたいと半ば強引に参加を決めた。初日はオリエンテーリングやレクリエーションがメインで、皆で飯盒炊飯や星空観察を行うなど大変ながらも楽しい一日を過ごした。

しかし、問題は二日目に訪れた。

朝からカッター訓練を行うことになっており、海岸へ集合する一同。だが友人は前述の通り身体が弱いので不参加に。巨大なカッターボートの船出を砂浜に座って見守っていると、指先に何かが当たった。

目線を向けると、そこには綺麗な白い石。何度も波にさらわれたのか、表面はつるつるとして感触が心地良い。

友人は思い出として、その石を持って帰ることに決めた。

その日の深夜、宿泊所で唐突に友人は目覚めた。近くで同級生の寝息や布団を蹴る音が聞こえる。昨日は歩き疲れてすぐに眠ったが、今日は見学のせいであまり動いていない。それで眠りが浅いのかなと思ったが、どうやらそれだけではない異変が起こっていた。

金縛り。身体が、どれだけ力を込めても動かないのだ。

唯一動かせるのは眼球のみ。けれど部屋は真っ暗なため、状況が掴めない。

助けを求めようにも声は出せず、恐ろしさから涙が零れる。そんな最中――ズズ、ズズと何かを引きずるような音が聞こえてきた。

『オォオオ、オオオオオオ』

更には不気味な呻き声がしてそちらに視線を移す。先程まで寝ていた友達が、いつの間にか包帯を巻かれた人間へと変わっている。

(嫌だ、恐い恐い恐い恐い恐い恐い)

これは悪い夢、早く覚めてと願う。だが願いは叶わない。

どしゃ、と部屋のどこかで何かが倒れる音。嗅いだことのない異臭が鼻孔を刺してくる。

瞼を強く閉じ、実家で待つ家族に助けを求め続けた。しばらくすると部屋の扉が開く音がして、誰かが入ってきた気配を感じる。

『――……――…………』

ぼそぼそと何かを話しているのは分かった。微かに聞き取れた単語は『手遅れ』『埋めて』だったと言う。

それだけ告げると足音は去っていく。同時に音も小さくなり……気付けば朝焼けの部屋に戻されていた。枕は涙で湿っており、瞼は泣きすぎたせいで腫れている。

すぐに教師の元へ行き、昨夜の出来事を説明。けれど「環境が変わって悪い夢を見ただけだ」と相手にしてくれなかった。

あれは本当に夢だったのか?疑問を抱きつつも三日目の野外活動を行っている時、またもや友人は恐ろしいものを見てしまう。

海の向こうに、ぽつんと佇む人影。そういうシルエットというだけで、本当に人かどうか定かではない。一体あんな場所で何をしているのだろうと思っていると〈それ〉はこちらへ向かって近付いてきた。恐ろしくなって、その場から逃げ出す友人。

けれどそれは海だけではなかった。木の陰、山の奥、建物の隅、様々な場所に〈それ〉は姿を現す。

ここにいてはいけない、そう感じた友人は体調不良を理由に島から出ることを決めた。教師は困惑したが、無理をさせる訳にはいかないと判断して帰船に付き合ってくれた。

何とか実家に戻ることができたものの、友人の体調は優れないまま。その日は夕食も摂らず自室でひたすら眠ることに決めた。

だが友人の思いとは裏腹に、最悪の事態が起こってしまう。

深夜、ベッドで寝ていると昨日と同様に物音と呻き声が聞こえてきた。そんなはずがない、ここは島ではないのに。

うっすらと瞳を開ける。暗闇だが、昨日までいた島の一室に戻されていることが分かった。

ガチャリと扉の開く音がして、足音が近付く。友人の隣に立ったせいか、昨日よりも話の内容は聞き取れる。

『――これも手遅れだ。例の場所に埋めておけ』

すぐ間近に『何か』が迫ってきた。こちらの様子を窺うように。

「いっ、いやぁああああああああああ!」

絶叫し、ベッドから飛び起きる。それを聞きつけた両親が部屋に飛び込んできた。

「どうしたの!?大丈夫!?」

友人は母親に泣きついた。恐ろしい夢を続けて見ていること、そのせいでおかしなものが見え始めていること。

「最初の日は何もなかったんだよな……?何か原因に思い当たることはないか?」

父親に訊ねられ、友人は思い出す。カッター訓練を見学している最中、砂浜で綺麗な石を拾ったと。

「石?ちょっと見せてみろ」

ポケットに入ったままの白い石を取り出して渡す。それを見た瞬間、両親は軽い悲鳴を上げる。

「あ、あなた……これ……!」

「……間違いない、これは……骨だ……」

翌日、両親は会社を休んで友人とともに祈祷してくれるという神社に向かった。

神主は事情を聞いた後、問題の骨を見て表情を落とす。

「……これは人骨ですね」

「な、なぜそんなものが……」

「見つけなさった場所は似島だったと仰いましたか。あそこは第二次世界大戦終了直後まで陸軍の検疫所が置かれており、更に原爆投下後には臨時の野戦病院として一万人以上と言われる被災者が運び込まれたんです」

「け、検疫所……野戦病院……?」

「それだけの患者に診断や治療など施せる訳もなく……多くの亡くなった者達が今もあの地に眠っているのです。娘さんが拾ったこの骨の持ち主も、恐らく……そんな時代の被害者でしょう」

神主の話を聞き、あの恐ろしい夢の内容に合点した。もしかするとあれは、現実に起こった出来事の記憶が呼び起こされたのかもしれない。

「来てくださってよかった。処置が遅れていれば娘さんの身に何が起こっていたことか……」

祈祷を終えた後、人骨も神社で預かっていただくこととなった。

それからは恐ろしい現象も消えたと言う。

現在も似島での遺骨発掘は行われており、霊感の強い人が異変を訴えることも多いという。一度足を運んでみてはいかがですかと言われたが……少し考える時間を頂くとしよう。

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