幽霊画の話(大阪府) | コワイハナシ47

幽霊画の話(大阪府)

大阪の天満で飲食店を営んでいた小山さんの話。

「前のオーナーのオムライスが大好きでね、手作りのケチャップが生のトマトを煮て作られていて、独特の酸味があって絶品だったの。

でもねえ、体調を崩して続けられないから閉じるんだよって言われて、じゃあ僕がやりますってその場で手を挙げ名乗り出ちゃって。でも、飲食なんかアルバイトすらもやったことなかった。

丸っきりの素人だったのに、脱サラしてその店継ぐことになっちゃったわけよ。

最初は洗い場だけの手伝いだったんだけど、性にあったのか直ぐに調理場に立って料理の手伝いをしだしてね。そうしたらオリジナルのメニューも考案したり、どんどん店で働くのが楽しくなってきて。そして、これで完全に安心して店を継げる、ってなって、オーナーも体があちこちガタ来てるし、いいタイミングだってんで、ぜーんぶ僕に譲ってくれたわけ。

で、最後の営業日にね、これ肝心なものだから大切にしてね、ちょっと気持ち悪いしびっくりするかも知れないかもって、カレンダーを外してね、血みどろの幽霊画を見せてくれたわけよ。

なんでもね、前のオーナーが言うには、幽霊画は陰やから陽を呼ぶ。金気は陽やから、客に見せなくってもいいから、店内のどこかに必ずかけておいてくれってことだったんだけど、店がちょっと軌道に乗り始めてアルバイトを雇いだした時にね、気持ち悪いって言われて処分しちゃったんですよ。

料理の腕は良かったんだけど、ちょっと前のオーナーはね、風水とか占いとか気にする人でさ、俺はそういうの苦手っていうか、正直信じてなかったから。でも不思議なもんでね、幽霊画を捨ててから、特にこれと言って何かが変わったこととかなかったのに、客がガタ減りでね。

それから値段を下げても、食材をよくしても客足が戻らなくって。ビラ配ったり、千円のビールとつまみのセットを出したり、ワンコイン弁当作ったり思いつく限りのことは全部やったよ。でも全然だめ。そうしたら不思議なもんでね、気持ちがさ、ほら、何かありえないことでもいいから頼りたいって気になってくるわけ。

それで、前のオーナーが言ってた幽霊画を飾ってみようって思ったけど、探してもね、売られてないんだよ。画廊とか行っても無いわけ、幽霊画。しかたないからね、幽霊って文字を筆ペンで書いて貼ったの、トイレに。無いよりマシかなって。

それにその時ほら、トイレの神様だっけ?なんかそういう歌が流行してたから。それでそのおかげなのかどうかは分からないけど、前より客足が戻ったんだけどさあ、俺も肩を悪くしちゃって、鍋を扱えなくなってしまったのと、増税やら赤字の時の影響もあってさ、結局は店を閉じちゃった。

前のオーナーも、別にいいよって理解を示してくれてね。でもたまに今も仲間内で集まって、料理出したりしてるよ。たまぁにだけどね。でね、去年、初詣に天満宮に行った時に、どうしてそういう気分になったのか分かんないんだけど、易者に手相を見て貰ったわけ。

そしたら易者にね、人やなくて文字の形した幽霊がついてます。おもろいなあ、初めて見ました、って言われたの。

びっくりして、店のトイレの幽霊の貼り紙のことを話したら、それ燃やしたら肩が軽くなりますよって。でも、なんか変に愛着が湧いちゃってさ、俺の書いた下手な字なんだけど、まだトイレに貼ったままなんだよね。燃やしたら肩が軽くなる代わりに財布の中身も軽くなりそうだって心配してるのもあるんだけどさ。

で、俺の文字でよかったら書いたげるよ。

効果あるかどうかは分かんないけど、前に一枚お客さんに幽霊の字を書いた紙あげたら、分厚い財布拾ったって言ってたし。でも、最近そういやその人来てないなあ。なんかあったんかなあ」

この話を聞いてから半年ほど経った頃、そういえば小山さん最近どうしているかなと思って連絡してみた。

すると体調を崩して現在は愛媛の実家にいるということが分かった。

そして、お店を小山さんに譲った店長と、その後の関係について、色々と話してくれた。

「なんでも無料より高いもんないっていうけど本当だね。あの店が好きやっていう思い出だけの方がよかった。前のオーナーね、店を閉じることに理解を示してくれてて、しょうがなかったって何度も言ってくれてたんだけど、それは表向きやったみたい。実はかなり恨まれてたみたいなんです。もうあちこちで俺の悪口を言いまくってるって、人から聞いてね。

噂なんてあてにならんからと、最初は信じてなかったんですけどね、偶然居酒屋で前オーナーが俺のあることないこと言うてるの聞いてしまって。なんかもうあんなに店に惚れ込んで、儲けもそんな無いのに頑張ってたのに、どうして他人にあんなことを言えるんだろうって、涙が出て来て。

なんも悪いことしたつもりないのになあ、あんなに恨まれるだなんて。おかげでかなり人間不信ですよ。あれだけ大好物やったオムライス、今は苦手で食べられへんもん。

でも、俺もあかん奴でね、幽霊の文字あったでしょ。ちょっとあの後に色々とあって、文字が持つ力や言霊みたいなんをちょっと信じるようになったんです。文字を書いてあげた人から、その文字の通りの効果があったって幾つか話があったりしたからね。

それで、前オーナーに復讐というか、相当傷ついてるから、その気持ちを込めて『恨みます』と書いて一度送ってやろうかなって思ったんです。

でも、そんなことしたら人を呪わば穴二つっていうでしょう。なんか自分が堕ちるところまで堕ちるような気がして止めたんです。

何故かって言うと、あの……ねえ、本当に怖かったんです。

その手紙を出そうとして郵便ポストに行こうとした時、姿見が目に入って自分の姿を見たら、頭にね……黒い、とがった角みたいな影が見えて。

近くにあったクズ入れに、手紙を破って投げ捨てて帰ったんです。

あのまま出してたら、俺は地獄にでも堕ちたんと違うかな。いや、なんかごめん。折角電話をくれたのに、こんな話ばっかりで」

小山さんとの話は、一時間以上の長話になってしまった。

翌週小山さんから、直筆のお礼状が届いた。

そこには、時々連絡をくれると嬉しいということと、定期的に怪談が寄せられるといいですね、そのためにいろんな禍々しいことが貴方に降りかかることを願っています、と書かれていた。

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