箕面の地名の由来は、箕面の滝の流れが農具の「箕」の表面に似ていることから付けられたそうだ。
箕面の滝は、大阪府箕面市の「明治の森箕面国定公園」内にある滝で、日本の滝百選の一つに選定されている。
そんな箕面の滝を眺めるように、人間の頭蓋骨が滝見橋のテーブルの上に置かれる事件があった。
横には木の枝が「く」の形に置かれており、箕面に住むサルが自殺者の頭蓋骨を運んで置いたのではないかという説もあったが、未だに真相は分からず仕舞いだという。
その事件を聞いた学生の町田さんは、夜に一人で肝試しに行こうと箕面に行ったそうだ。
スクーターで向かった夜の箕面山中は誰もおらず、真っ暗でただ遠くの方から滝の水音しか聞こえなかった。
サルも寝ているのか、気配を感じず、スクーターから降りて懐中電灯で照らしながらゆっくりと道を上って行った。
町田さんは滝の傍に到着すると、家から持ってきた模型の頭蓋骨を再現のつもりで、滝見橋のテーブルの上に置いた。
そして頭蓋骨の持ち主の供養のために、背負っていたリュックから取り出したお皿を置いて、その上に線香を立てて火をつけた。
すると、ぼおおおおっと線香が勢いよく炎を上げて、髪の毛が燃えるみたいな、喉がいがらっぽくなる煙が出て来た。町田さんは思わず手を扇いで顔の辺りに纏わりついていた煙を払いのけた。
あまりにも煙たいのでゴホゴホとせき込んでいると「こんばんば」と背後から声がした。
びっくりして振り向くと、そこには白いレインコートを着たおじさんが立っていた。
無精ひげに目の下がたるんだ皺で覆われ、雨も降っていないのに黒いびしょびしょのスウェットを着ている人だった。
顎からも雫が滴っていて、白いレインコートが濡れた体に張り付いていた。
「何してるんです?」
あまり抑揚のない声で話しかけられ、最初は動揺した町田さんだったが、この近くに滝場があるという資料を見たことを思い出した。
だから、この人も修験道の修行をしているからびしょびしょなんだと町田さんは思うことにして、頭蓋骨事件をおじさんに話した。
「面白いですね。ラジオ持ってきたんですけど、一緒に聞きません?」
傷だらけのオーディオ・プレイヤーを見せながらおじさんはそう言い、滝見橋のテーブル脇のベンチに座った。
「こご、星を見るのに良いんです。音楽は何が好きですか?聞きまじょうよ一緒に、こご隣に座りません?」
空は曇っていて星は見えない。ちょっとおかしい人なんじゃないかなと感じた町田さんは「いや、いいです」と断り、足早にその場を離れた。
何度か振り返ると、おじさんはテーブルの上で座禅を組むような姿勢をしていたらしい。
スクーターを停めた場所に戻り、町田さんはキーをポケットから取り出してエンジンをかけた。
「こんにちば」
真横に、さっき出会ったおじさんがいた。体に張り付いたレインコートに抑揚のない声、他人の空似とは思えない。びっくりした町田さんはスクーターを急発進させた。
途中、信号で停まる度に何度も振り返り、あのおじさんが傍にいないかどうかを確認したそうだ。
家に戻り部屋に上がり込むと、ようやく落ち着いた町田さん、その時になって再現のために持っていった頭蓋骨の模型を、テーブルの上に置いてきたことを思い出した。
別に安物だったしいいか、とベッドの上に横になると足先に何かが当たった。
滝見橋のテーブルの上に忘れて来た筈の頭蓋骨の模型だった。