賽銭箱(茨城県) | コワイハナシ47

賽銭箱(茨城県)

Tさんが小学生の頃、引っ越しをした。

ある日母が、気になる夢を見たから一緒に出かけましょう、と言う。

どこに行くの?と尋ねると、K神社に行くというのだ。

夢枕に神様が立って、「この新居は方角が悪いから茨城県にあるK神社に行け」と告げられたのだという。

駅を出ると案内板にその神社が載っている。

小さな町を抜けると、やがて古くて小さな鳥居が見えた。

鳥居の前で掃き掃除をしているおばさんがいる。

「あのう、K神社というのは、こちら様ですか?」と母が尋ねた。

顔を上げたおばさんは、「あらめずらしい、そうですけどこんなところに御参りとは」と、いささか驚いた様子だ。

ふたりで鳥居をくぐって奥へ入る。

うしろからおばさんの声がするので振り返ると、「中へ入られてもあまり驚かれませんように」と言う。

よくわからないが、母は一礼して前へと進んだ。

ひなびた、社務所もない、小さな境内。

祠のような小さなお社が、ぽつんとあるだけだ。

Tさんはお母さんに小銭をせがんで、小さな賽さい銭せん箱ばこに近づいた。と、箱の中から両手の指先が出ている。

中に誰かいるんだ、と思って一瞬動きが止まった。

こんな小さな箱の中に?まさか。

賽銭箱に顔を近づけて奥をのぞくと、両手の間から小さな顔が見えた。

その目と目が合った。

その目が怖くて体が動かない。

「何してんの?」

その様子をうしろから見ていた母が声をかけた。

その声で体が動いた。

「母さん、中に誰かいる」

「なにが?」

そう言って賽銭箱をのぞいた母も、えっ、と言ったきり、動きが止まった。

次の瞬間、きゃああ、と大声を出してとびのいた。

ふたりで神社の外に駆け出すと、鳥居の前を掃除していたおばさんが待っていたかのように、「あっ、驚かれませんように。驚かれませんように」と言う。

「賽銭箱の中に」と言いかけると、「まあまあ、悪いもんではありませんから、お気になさいませんように」と笑った。

賽銭箱の中の顔は、今も鮮やかに覚えているという。

「私たちはそれをわざわざ見に行かされた、ということなんでしょうか」

Tさんはいまだに不思議で仕方がないという。

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