二十年前の話だという。
当時小学生だったKさんは、桃谷の警察病院に入院していた。
Kさんのいた同じ病室に、同じ年頃の男の子がいた。
ひどい喘息の子で、毎晩毎晩発作を起こしたが、あまりの咳とその苦しそうな姿が可哀想で、文句を言う人は誰もいなかった。
ところがある日、その子が急に退院した。
なぜだろうとKさんは看護婦さんに聞いてみた。
一週間くらい前、男の子のおばあさんが亡くなった。葬儀の準備でご両親とも付き添いができなかった晩のこと。男の子の夢におばあちゃんが出てきて、「持っていくからね」と言ったのだという。
それを聞いた看護婦さんたちも、「そうだったらいいのにねえ」と噂しあっていた。ところが本当に、その日から喘息の発作が出なくなり、今日まで様子を見ていても問題がなかったので退院したのだという。
「きっとおばあちゃんが、あの世に喘息も一緒に持っていってくれたんだね」と看護婦さんは笑った。