大阪に纏わる怪談会をやりますよとネットで告知を行なったところ、八名の方が参加してくれた。
その中の一人、現在北区の会計事務所に勤務しているという小川さんから聞いた話。
「大阪といえば、多分真っ先にたこ焼きを思い浮かべる人がおるんと違うかな。
昭和の三十年くらいにね、誰かから聞いたんやけど、大阪府内のたこ焼き屋は一万軒ほどあったらしい。そんなたこ焼きに欠かせんのが、爪楊枝。
箸やと摘んだ時にまあるいたこ焼きが潰れやすい。やっぱり、熱々なんを爪楊枝二本でそのまま口に運んで、とろっとしたのが口の中でじわっと溢れてくるのを味わうのが一番やと思うね。知ってるかも知れんけど、爪楊枝って大阪の河内長野が生産数、なんと世界一。爪楊枝のことを黒文字って呼ぶことあるでしょ。普通は黒文字って呼ぶのは茶会で使う道具みたいな楊枝でしか使わんけどね。せやけど、自分が昔住んでた所では普通の爪楊枝も〝くろもんじ〟とか〝くろもんご〟って呼んでた。
自分が小学生の頃に〝くろもんご〟に目を突かれるって噂があって、俺は二の腕突かれたことあるとか、お腹を突つかれたとか、口裂け女みたいな都市伝説でしょうか、そういう話があった。
中には〝くろもんご〟に太ももやられたとか言って、赤い点みたいな傷を本当に見せる子も何人もおりました。いつの間にか爪楊枝の呼び名から、怪人の呼び名みたいな使われ方もしとったわけです。
噂は割と長いこと続いてあって、他の小学校にはなくて、どうしたわけか、自分が通っていた学校でだけ騒がれておったんです。
公園に、時々〝くろもんご〟がおって、たこ焼きを乗せてる発泡スチロールの船にね、血まみれの爪楊枝を乗せていて、それで目を突くなんて話で朝から持ち切りやった。
当時は今みたいにインターネットもないし、単なる噂なのか真実なんかは、子供同士の話だけやと見極めが難しかったんです。
だから、登下校中や、公園で遊んでいる最中に〝くろもんご〟が来たらどないしようと、怖がっとった。
最近は表札掲げてる家も減りましたが、昔はどこでもあったでしょ。木で出来た表札にねえ、ぶっすりと〝くろもんご〟が刺さってることがあって、それは自分が住んでた家の表札にやられたんで、実物を見ました。
親は子供の悪戯や、けしからんってな具合で、警察に届けたりはしてませんでしたな。
表札って雨風に耐えるように固い木で作られてるでしょ。そして爪楊枝は皆さんも知ってはるように、柔かくて、すぐにポキッと折れる木で出来てます。
なのに、どうやって爪楊枝を半分ほど表札に刺せたんか、不思議やなあと。
かなり昔に、この話をブログに掲載してみたら〝くろもんご〟を知ってる、実際の被害者やったって人に会うことが出来たんです。
その人は同じ小学校出身でもなければ、知り合いでもなかったんですけど、やはりその人の住む地域でも〝くろもんご〟と呼ばれる、子供を楊枝で突く人がいたという噂があったそうで。
その人は、小学校の四年生の時に、お使いに行った帰りにね、詰襟の学生服を着たお兄さんに、耳にピアスをくろもんごで開けられそうになったっていうんです。
耳たぶを摑んでいきなり爪楊枝を突きつけたそうで、ビックリしてお使いで買った酒瓶を落として割ってしまったそうです。
その時は大きな声を出したおかげか、それ以上のことは無かったらしいんですが。
こういう話を聞いたり、思い出したりするとね、口裂け女とかも、どっかに本当におった人なんちゃうかなあって思うんです」