天満にある燻製屋さんに立ち寄ったところ、店内のあちこちに写真が貼られていた。
前に来た時は無かったものなので、これはなんですか?と店長に聞いたところ、写真を燻製したもので、広告会社でコピーライターとして働きながら、写真家として、また、UFOを呼ぶためのバンド「エンバーン」のリーダーとして活躍中のケイタタさんの作品だという説明を受けた。
持ち帰り用の燻製おむすびを頼み、出来上がるのを待っていると、丁度店内にケイタタさんがいることが分かった。
私は燻製された写真に囲まれた店内で「UFO見ますか?」とケイタタさんに訊くと、UFOは結構大阪上空に来ていることを教えられた。
例えば、難波で空をナイキのマーク形に何度も飛んでいた飛行機の軌道ではありえない物を見たり、山の方にパッパッパッと点滅しながらW字形に飛行するUFOを見たりしたそうだ。
妙見山の辺りにも、よく来ますということだった。
大阪の空にUFOがいるのか……そんなことを考えて、夜空を時々見上げながら、家に帰った。
怪談を集めていると、似たような話が連鎖のように何故か集まってくることがある。
ケイタタさんの話を聞いた翌日、UFOに纏わる話を交野市に住む長谷川さんから聞いた。
交野市は降星伝説があるやん。おまけにそれだけやなくって、天から神様を乗せて来たっていう岩船を祀った磐船神社もあるやろ。
つまり天上の世界から来たという伝承がもともと多い地域。
星や岩船に乗ってやって来た神様って、俺はもしかしたらそれ宇宙人とちゃうかなって思っとるんです。
俺が小学生の頃に、川口くんって子がおったんです。声がやたら小さい子で、ちょっといじめられとったんやけどね、ゲームが好きやったから、俺とは結構一緒に遊んでることが多かってん。
ある日家でゲームしてたらな、川口君が凄いもん見せるって言うから、どんなんや?って聞いたんです。
そしたら川口くん、見といてってピーピーと口笛を吹いてな、八匹くらい百円硬貨サイズのめっさ小さいUFOが、わらわらとどこからもなく出て来おったんですよ。
すごいやろ、すごいやろって川口くんがね、囁くような声で得意げに言うてたんやけど、UFOがいる間ものすごく耳がめっちゃ痛いんです。
キーンとするモスキート音が脳の中で響くような煩さやったから、両手で耳を塞ぎながら、川口くんの言うことに頷いてたんです。
俺は、これはむっちゃ凄いことやから、写真を撮って同級生のみんなに見せようって提案して。当時はデジカメとかあれへんから、フィルムが余っている使い捨てカメラを家の中から探して持ってくしかなかったんですけどね。
俺はなんとか家から使い捨てカメラを見つけ出して、川口くんにUFO呼んで貰ってバシャバシャ撮影したんですよ。
と言っても当時は二十四枚しかフィルムが入ってへんから、撮影出来たといってもフィルムも少ししか余ってなくって三枚くらいやったんですけど。
川口くんになんでこんなこと出来るんかって聞いたら、天野川トンネル近くにおったおじさんに教えて貰てんって言うんです。
どうしてそんな所に行ったんやって訊いたら、犬の散歩しとったら犬が天野川の方に行きたがったからやと答えられて。UFOなんて呼ぶん簡単や、口笛吹いて、宇宙人に心の中で自分の秘密を言うだけでええんや。電車乗る時に電車賃いるやろ、UFOの燃料は人間の秘密やねん。それも誰にも話されへんような秘密やないと燃料になれへん。
そういう話をおじさんから聞いて、その通りにしたら、呼べるようになってしもうてんと、川口くんが言うたんや。
まあでも実際、俺も何回もやってみてんやけど、川口くんみたいにUFOは呼ばれへんかった。
そいで、学校でね、俺は皆に写真撮ったことと川口くんがUFO呼べる話をしてね、みんなの前でやってくれって頼んでみてん。そうしたら凄い顔で嫌やって断られてね。そのせいでクラスの皆から嘘つき呼ばわりされてしまって。悔しかったから、すぐに放課後に写真を現像しに行ったらUFOがね、ブレてたせいか普通の羽虫が群がってるようにしか写ってなかったんです。
そうなると、もうなんか川口くんに腹が立ってきて、みんなの前でUFO呼ばんと許さへん、もうお前なんか友達やないからなって言ってやったんです。
そのやりとりを聞いとったクラスメイトがおってね「お前ら嘘つきやん。ちょっと仲いいからって、かばい合ってしょうもうないこと考えんなよ。UFOなんておるかい」ってな具合に言われて。悔しいから、頼むから呼んでくれって何度も頼んだら、凄いもったいぶって、UFOを口笛を吹いて呼んでくれたんです。
UFOが来るとね、キーンというモスキート音と、お腹の上の辺がぐうっと押されるような気持ち悪さがあったんですけどね。まあ実際来たのを見たら、文句言うてた連中もぽかんと口を開けて、アホみたいな顔して見てましたわ。
川口くん、この調子でいっぱい呼んで、皆に見せてやろうなって言うたらですね、呼べるんはあと数回かも知れへん、秘密が足らんから。エネルギーが足らんで呼ぶとUFOの中の宇宙人に怒られるねんって項垂れたんです。
なんやそれおもろないなあ、秘密なんていっぱいあるやろ。無かったら作ったらええやんかって、それからは何度頼んでも、川口くんはUFO呼んでくれんかった。
その頃くらいかな、川口くんの頭の後ろの毛が抜けて、頭皮が見えるようになったんです。
子供は残酷やから、それを頭に出来たミステリーサークルやとか、からかってね。俺はなんやかんやいうて虐めには加担せんかったけど、川口くんとだんだん疎遠になってしもうて。
そんな時に急に、UFOの秘密を教えるから、また遊んでよって川口くんから声をかけられてん。
虐めには加担してへんかったけど、庇ったりもしいひんかったから罪悪感もあって、誘いを断るのが悪い気がして、話に乗ってやったんです。
学校の帰りにね、川口くんに付いてったら、家やなくって、どんどん町から外れた場所にずんずん進んで、線路近くの竹藪に連れていかれた。
急に竹藪の中で、川口くんがしゃがんでね、手で地面を掘り始めたんです。
しばらくしたら、なんかバラバラっと白い欠片が出て来てね、なんやろって見たら小さい牙の付いた頭蓋骨や細い骨なんです。
大きさからして、猫やったんかなあ。
骨を一つ川口くんが拾い上げて、俺の方に向けて見せてね、これ全部、僕が生きたまま埋めてん。UFOやけどな、これでもう呼ばれへん。だって僕だけの秘密が、これで無くなってもうたからって笑っとった。
それ以来、学年上がっても、一緒のクラスやってんけど川口くんとは一切話さへんかったし、目も合わさへんようになったんです。
あとねえ、この話とは別に、川口くんの秘密を聞いてから、中学に上がるくらいの頃までよくUFOを街中で見たんですよ。
川口くんが呼んだような小さいヤツじゃないんです。町の上にふらふらと結構大きいのんが浮かんどるんです。
雲とか飛行機とか凧とかじゃ、説明付かないような形と色と飛び方しとって、ぐるぐるぐるって渦みたいに巻くように点滅しながら飛んどったり、くらげみたいな動きしとったりするんです。
交野の辺りって星に由来する地名がようけあるでしょ、駅名にもなってる星田に天野川、星の森、星田妙見宮、星田旭遺跡に南星台、天田の宮に月の輪滝とか。
UFOをあんなに簡単に川口くんが呼べたり、俺が何度もUFOを見たんは、やっぱりおかしいと思うから、昔からこの辺りは星と行き来できる宇宙人の基地みたいなんがあったんと違うかな。
宇宙人の基地があったのかどうかは分からないが、町に星が降った跡は未だに残っている。
伝説によると星田妙見宮の滝は、隕石によって抉られて出来たそうだし、落ちて来た星もご神体織女石として祀られている。
星は三ヵ所に降ったらしく、光林寺と星の森にも降星伝説が伝わっている。