幽霊とか見たことないし、心霊体験ってほぼゼロなんですけど、一回だけ不思議なことがあったんです。むっちゃ昔なんですけど、それ、話していいですか?
オンライン飲み会でそろそろお開きにしようかという流れになった途端、中学時代の同級生だった松村君が突然こんなことを言いだした。
松村君はもともと京都に住んでいたのだが、高校卒業後、就職をきっかけに大阪に移り住んだ。イベント企画が好きらしく、ネット上でいつも様々な集まりを考えている。
このオンライン飲み会も、連絡先を知っている者同士が「そもそも、オンラインで飲み会をやって楽しいのだろうか?」と実験的にやってみようと松村君が企画したものだった。
オンライン飲み会は一人が喋っていると、他の参加者が聞き役に徹さないといけないし、思ったよりみんな共通の話題がなく、なかなか盛り上がらなかったのだが、それはメンバーがあまり親しい間柄でなかったせいかも知れない。
ともかく、突然始まった怪談に、私以外の参加者は、ややうんざりという表情を浮かべているように感じた。
「妙見山に家族とハイキングに行った時の話なんやけど。小学校の六年生の時で、ほら、それくらいの年やと家族と一緒にどっか行くのって恥ずかしいじゃないですか。
誰かに見られたら、何か言われそうやし。でも俺の親父は、こういう家族の誘いを断ると怒るんですよね。
ちょっと俺も早めの反抗期に入っとったから、行きたないって抵抗したんやけどね。当時ってまだ、子供はどついて躾ける時代やったやないですか、親父はつべこべ言うなってバーンとはたくんです。
俺と弟はそれを当時、親父による『暴力が支配する時間』やって呼んでました。親父がずるいのはねえ、俺が第二次性徴期に入った途端に、どつかへんようになったことやね。
あれ、絶対に俺からの復讐をおそれてたんやと思う。そういうやつなんですよ。
朝早くに起こされて電車を乗り継いで、妙見山に行ったんですけどね、親父はほら空気がうまいやろうとか、景色が綺麗やろうって言うんやけど、こっちは全く面白くなかってん。
弟も俺もそんなしんどい思いして山登ったりするよりも、家でゲームしていたかったから。だからバレたら絶対しばかれるの分かってたんやけど、リュックにゲームボーイ隠し持って行ったんです。
山に着いて弁当食べてから、親には弟と一緒にその辺りの景色見て来る、虫とか花とかもついでに観察してくるしとか適当言って、ひと気のない場所に行ったんです。
山の中をうろうろしとったら、ちょうど子供が二、三人すっぽり入れそうな土がえぐれた場所があって、そこでリュックからゲームボーイを取り出したんです。
ゲームボーイって、スイッチを入れると、NINTENDOのロゴでチャリーンのハズなのに、その時はロゴが出んと画面が真っ黒で、ホギャアって赤ちゃんの泣き声がして俺、めっちゃ凄いビビって、大事にしとったゲームボーイ地面に落としてしまったんです。
でも、かなり頑丈な作りやったんか、土とか付いてたけどスイッチ入れなおしたら今度は無事に起動して、弟と二人で小さい画面見ながら交代でゲームしてたら、小さい地震があって。
震度でいうたら二くらい?ちょっと揺れた?程度やったんですけどね。
土が崩れて来たら嫌やし、あんまし長いことここにおって、ゲームしてたんがバレたら親父に怒られると思って、戻ろうとしたんです。
そしたら足元に四つくらい、赤ん坊の顔みたいなもんが浮かんでて、口をぱくぱくさせとったんですよ。
俺も弟も、真っ青になって親父のところに戻って。
親父は猪にでも出くわしたんか?って、俺らの顔を見て言いましたけどね。
幽霊とか見たって言ったら、怒られそうな気がしたから、その時は熊か猪の気配があったから弟と逃げて来たんやって返事したんです。
この体験、最近まで忘れとって、なんでかふっと思い出したからインターネットで調べてみたら、妙見山って昔は仕置き場があったらしいんですよ。
罪人の処刑だけじゃなくって、揉め事の解決のための交換処刑とかもやってたらしくって。
農民代表者の十名を二つの村からそれぞれ出して、身柄を互いに引き渡して、双方で斬首処刑ってのがあったヤバイ場所らしいんですよ。その十人も罪人とかやなくって、くじ引きで決められたらしいし。
それとあの赤ん坊が関係あるんかどうかは分からんけど、心霊スポットってそういう変なことあるっていうから。どうなんかなと。
ごめん、なんか酔ってるし、最後に幽霊の話とか、変やんな。今日はこれで終わりにします」
色々と聞きたいこともあったのだけれど、そんな風に初オンライン飲み会は終了となってしまった。
二回目を開催すると聞いていたのだけれど、今のところ私にはなんの連絡も来ていない。