予想もしない(鹿児島県) | コワイハナシ47

予想もしない(鹿児島県)

鹿児島県は、文化的に独特である。

他の地域から観光に来ると、先ず驚くだろう。

そして桜島という活火山が爆発する度に、火山灰が降る。

県民はこの桜島と上手く付き合って日々生活していると言えよう。

また、周囲には数々の島があり、それぞれ珍しい風習や祭りが残る。

どれも鹿児島県の魅力である。

このような鹿児島県であるが、心霊スポットも数多く存在する。

有名どころからレアでマイナーな場所など、枚挙に暇がない。

取材・調査をしていくと〈一家惨殺〉や〈殺人事件〉〈未解決事件〉などに関係するパターンも多く、血腥い話も数多く聞く。

しかし、当時の新聞記事を始めとする資料と付き合わせていくと、それが全て真実ではないことに気がつくだろう。

どうしたことか複数の事件が融合されていたり、スポットと事件現場が全くの無関係だったりしているのだ。ここに心霊スポットが発生する理由を垣間見ることが出来る。

ただし、全部が全部同じではない。

中には、スポット化するのも、然もありなんという事柄も沢山あるのだから。

斉野君は鹿児島市に住む。

進学で鹿児島県にやって来たのだが、その後は地元に帰ることなく就職した。

現在は、とある専門的分野で働いている。

そんな彼は、心霊スポットが大好きだった。

鹿児島県に来てすぐ単独で有名な所へ足を運んだ程だという。

期待していたせいか、それとも他に理由があるのか知らないが、何もなかったらしい。

しかし、と彼は神妙な顔になった。

斉野君が二十歳になってすぐの頃だ。

その日、彼は友人女性と二人、鹿児島の某市を散策していた。

そのときは心霊スポット目的ではない。

歴史ある建物や神社仏閣を見て回っていたのである。

が、途中、スマートフォンがないことに気がついた。

さっき立ち寄ったカフェで使った記憶がある。だから、多分そこで忘れたのだろうと目星を付け、友人に店に電話をして貰う。

「あったって。保管していてくれるみたい。取りに行く?」

店から結構歩いてきている。戻らせるのは忍びない。

走って取ってくるよと斉野君は友人をその場に待たせ、走り出した。

(方向的には、こっちへ行った方が近い)

途中、脇の小道へ入りショートカットすることにした。

さっきは使っていない道である。

住宅と住宅の合間に通る、両腕を広げられないほどの小径だった。

やけに靴音が跳ね返って響く。

きっと住んでいる人からすると煩いだろう。家々の間を抜けるまで、早歩きへ変更した。

(あれ?行き止まり?)

進行方向へ背の低いブロック塀が現れる。

よく見れば、道は左側に折れていた。

塀の向こうには平屋が一軒建っている。

建屋そのものは真新しく、今風のデザインだった。

何となく、自分もこういう家を建てたいものだ、と彼は思った。

塀まで辿り着くと庭が一望できる。

芝生とまだ細い植木、そしてダークブラウンのウッドデッキが設えてあった。

大きな硝子サッシ越しに室内も丸見えだ。

完成して住み始めたばかり、という雰囲気がある。

(へえ、なんか良い感じだなぁ)

じっくり見たいが、そう言っている暇はない。人を待たせているのだ。

そのまま立ち去ろうとしたとき、何かが視界に端に引っかかった。

思わず立ち止まる。

塀の向こう。ウッドデッキの下に、何が居る。

思わず目を丸くした。

(赤ちゃん……?)

赤ん坊が赤いベビー服に身を包んで、俯せになっている。

どうして庭に一人で赤ん坊を放置しているのだろう。

ネグレクトであるなら、黙ってはいられない。

二、三歩戻り掛けてみて、ふと気がついた。

(さっき、居たか?)

あれだけ目立つ色だ。庭を眺めたら真っ先に目に飛び込んでくるに違いない。

それなのに、スルーしていた。してしまっていた。何故だ。

自問自答している最中だった。

目の前で赤ん坊が消えた。

まるで高レベルのマジックのように、一瞬でいなくなっていた。

思わず、口から小さな声が漏れる。

自分の目の前で起こったことを脳が処理しきれない。

呆然と立ち尽くしていると、大きなサッシが開く。

そして、その家の住民らしき人がウッドデッキに出てきた。

二十代後半くらいの若い女性で、明るい色のシャツに細めのボトムだった。

女性はデッキの縁に立つと、その下を訝しげな表情で見詰めている。

ややって、斉野君の存在に女性が気づいた。

何か言われそうな感じだったので、そのまま走り去る。

その後はノンストップでカフェへ入り、スマートフォンを受け取った。

礼を述べてそのまま来た道へ引き返す。

低いブロック塀も、ウッドデッキもそのままあった。当然、赤ん坊は消えたままだ。

ただ、ひとつだけ変化があった。

丸見えだったサッシの向こうが、バーチカルブラインドで隠されていた。

外から見えなくするためか。それとも別の意味があるのか。例えば、内側から外が見えないように――斉野君にはどちらであるのか分からなかった。

以降、斉野君はこの家を何度か見に来たことがある。

と言っても頻繁に訪れると通報される恐れがあったので、三ヶ月に一度くらいだ。

当然、その家の住人に何かを訊ねることも、庭へ不法侵入もしない。

細心の注意を払うことに心を砕いた。

二度目に来たとき、庭の様子が少し変わっていることに気づいた。

ウッドデッキの前だけが掘り返されたかのように芝がなくなっており、土が剥き出しになっていたのだ。

三度目は、デッキが取り壊され、庭の隅に小さなお社が建てられていた。

四度目は、社がなくなっており、家と庭が酷く荒れていた。

五度目で空き家となり、その後は買い手がなかったのか、更地となった。

その後は行かなくなったのでどうなったのかは知らない。

斉野君が言う。

心霊スポットだけがヤバいとこじゃない。きっとこういう風に、何気ないところにポツンと何かがあるパターンも全国には多いのではないか?と。

そうかも知れない。

鹿児島県下だけですら、数ヶ所そのような場所を聞いている。

中には、体験者に何らかの影響を与える場所もあった。

影響――そう。斉野君にも覚えがある。

彼はあのウッドデッキの家を確かめに行くたびに、みるみる視力が下がった。

二十九歳の現在、裸眼では生活が出来なくなっている。

視力の衰えは一応止まっているようだが、いつまた落ちるか分からない。

途中で「視力低下の原因はあの家ではないか」と予想したのだが、どうして見に行くことを止められなかった。

やはり、物見遊山で観に行ってはいけない場所があるのだ、と彼は後悔している。

だから今、斉野君は心霊スポットにも、それ以外に少しでも怪しいと思った場所にも、絶対に足を運ばないようになった。

最初から関わらなければいいのだから、と。

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