時空ドライブ(東京都新宿区) | コワイハナシ47

時空ドライブ(東京都新宿区)

茨城県出身の建設作業員、木村清さんは四〇年近く土木工事に携わってきて、さまざまな地方の現場に従事してきた。現場から現場へ流れ流れて、気づけば何年も家に帰っていない、そんな時期もあったという。

「若い頃は体が丈夫だったから無理が利いたし、いつでも実家に帰れたから。まだ作業員の寮から寮へ移りながら働いていた三〇前後のことでした」

八〇年代の終わり頃のその当時、彼は東京都新宿区の現場で働き、都内の寮に住んでいた。

寮と現場を繋ぐミニバスもあったが、自家用車で行き来するのが好きだった。ちょうどトヨタのスープラを買ったばかりで、通勤にドライブにと、毎日乗りまわしていたのである。

「その頃、東京ではやたらと雨が降っていました。確か九月で、晴れていたのは二日か三日で、あとは曇りか雨降りか。その日も朝のうちは雨。でも休みだったから横浜の方へ独りでドライブして……中華街の駐車場に車を停めたときには雨が止んでいました」

徒歩で山下公園や外人墓地など横浜の名所を見物し、中華街で昼兼夕食を食べ、午後四時を少し回った頃、菓子や肉まんを買い込んで駐車場に戻った。

「スープラに乗った途端、目の前が一瞬真っ暗になって脳味噌がブワッと膨らんだように感じました。頭の芯に向かって吸い込まれるような未知の体感があって意識が飛んだ、と思ったら、すぐパーッと視界が明るくなって、正気を取り戻したんですけど、そしたら景色がさっきと違う。外は夜で、恐々、運転席から外を見回したら、新宿の現場に入る前までいた山梨県の寮にいるみたい。どういうこと?と、混乱しながら車を降りて確かめても、やっぱりそこは前にいた寮の駐車場で、腕時計を見たらもう八時近くて」

腰を抜かしそうになり、膝をガクガクさせながら、とりあえず車に乗ってエンジンを掛けた。そして東京の寮に帰りはじめたのだが──。

「僕は方向感覚には自信があって普段は道に迷わないし、前の寮から東京に遊びに行ったことも何度かあったのに、しばらくすると見覚えのないトンネルが見えてきたんです。不安になって路肩に車を寄せて地図を確かめたところ、やっぱり道を間違えていたけれども、このトンネルを抜ければ東京方面に行けるということがわかりました」

そこでトンネルに入ったところ、再びあの頭の芯に吸い込まれる感覚に見舞われた。

「気がつくと、僕は東京の寮の駐車場に到着していました。時刻は午後五時でした」

しかし、メーターを確かめると東京と横浜を往復しただけにしては走行距離が異常に増えていた。

清さんは、その後しばらくハンドルを握る気になれなかったそうだ。

シェアする

フォローする