未確認話(熊本県) | コワイハナシ47

未確認話(熊本県)

ある人物が熊本県阿蘇市方面から、宮崎県高千穂町へ移動していたときだった。

早朝から高千穂町で仕事だったので、まだ暗い道を車で走る。

冷えているな、と彼は思った。が、まだ道の凍結はなさそうだ。

車載の時計は午前五時過ぎ。

この分なら六時には必ず目的地に着くだろうと予想が出来た。

が、ふと後ろが気になった。

ルームミラーを見ると、光るものが後ろにぴったりと煽るようにくっついている。

バイクのライトそっくりだ。

(普通なら、後続車にすぐ気づくはずだが)

まるで車の真後ろに突然現れたような感覚があった。

考えてみれば、相手のエンジン音も何も聞こえない。

ミラーに目を凝らすが、車体もバイカーの姿も確認できなかった。

これくらい張り付かれれば、テールランプの光である程度は見えるはずだ。

一体これは何だと、アクセルを踏み込む。

振り切れない。

限界近い速度で繰り返しカーブをクリアしていくが、それでも光は離れない。

ミラー越しに後ろへ注意が向いているとき、突然、前方左側から飛び出して来た何かが視界に入った。

驚き、急ブレーキを踏む。

だが、強い衝撃が車体に伝わった。

(やっちまった……!)

あの一瞬で、それが何か理解できていた。

人だった。

それも、若い服装の女性で、白っぽいカーディガンのようなものを身に付けていた。

流石に顔までは見えてないので、どのような人なのかは分からない。

こうしていても仕方がない。外へ出る。

だが、誰も居ない。

点けっぱなしのヘッドライトに照らされた辺りを見回す。

人を跳ねた痕跡すら残っていない。道路にも、車体にも。

(まさか、下か後方に倒れているのか)

乗り上げた感触はなかった。しかし、ないと言い切れない。

這いつくばるように道路に伏せて、確かめる。ない。

立ち上がり、後方を――。

「あ」

あの正体不明の光のことを思い出した。

何かにぶつかったことで今の今まで頭から飛んでいた。

あれもどうなったのか。

改めてぐるりと周囲を調べたが、光も、跳ねたものも、何もなかった。

ふと知人が話していた〈よくある怪談〉を思い出す。

夜道、人を跳ねたと思ったら、何も居なかった、という奴だ。

(それと似たことが起きたのか)

首を捻りながら、少しだけ車を動かして、もう一度調べた。

やはり、何もなかった。

その日は、そのまま高千穂町に移動して仕事をしたが、やはり落ち着かない。

もしかしたら、本当に人を、と常に考えてしまったからだ。

車にダメージがないからそれはないと断言したいが、やはり気になる。

以降、ニュースや新聞で〈轢き逃げ〉や〈放置遺体〉などを注意してチェックしていたが、約一年ほど何も該当しそうなものは目にしなかった。

ホッとするのと同時に、あの時見た光と飛び出してきたものの正体が分からないままなので、今ももやもやしたままである、と言う。

他に何か気になることがなかったかと聞くと、彼は特にないと答えた。

しかし、途中でふ、と何かを思い出した顔を浮かべる。

当日、高千穂町の仕事先で、少しだけ意味不明なことがあったらしい。

昼食を外で終え、現場事務所へ行くと事務員さんが丁度電話を切ったところだった。

「あ、丁度今、電話来てたが!」

メモを渡される。

知らない名字があった。電話番号はない。

「女の人やったけど。番号は知っているはずだから掛け直してって、言ってたが」

社名は名乗らず、彼のフルネームで取り次ぎを頼んできたので、プライベートな相手だと思ったようだ。

が、知り合いには現場の番号は教えていない。それに電話をして欲しい、してよいという話すら誰ともしていない。

そもそも、この現場へ来ているのを知っているのは自分の会社の人間くらいだ。

彼女や友達も知らない。

相手が気になるが、すでに現場へ入る時間だ。そのままメモをポケットに仕舞った。

夕方に仕事を終えた後、メモの名字をもう一度見た。

やはり知らない名前だ。

何となく、朝方の出来事絡みかと不安になった。

事務所の電話からリダイヤルさせて欲しかったが、流石にずうずうしいと諦める。

自分の会社へ戻ってから、念のため訊いてみた。

日中、自分宛に電話がなかったか。そして、出先の連絡先を教えてなかったか、と。

全員が知らない、と答えた。

以降、同じような電話は二度と掛かってこなかった。

理由を付けようと思えば付けられますけれど、何となくタイミング的に気になりましたねと、彼は顔を曇らせた。

シェアする

フォローする