ある女性が、女の友人ふたりと男五人で翌朝からゴルフをするために霞ケ浦に行った。全員で旅館に到着したのは夕方すぎだった。
女三人、案内されて部屋に入ると驚くほど寒い。
春先とはいえ、まさか外より寒いとはね、とエアコンを入れて室温を三十度にセットしてお風ふ呂ろに行った。部屋に戻った時に湯冷めしないようにしたのだ。
ところが、風呂から帰ると、部屋はさっきよりも寒い。
なにこれ、エアコン壊れてるの?
あわててスイッチを切った。
この寒さではすぐ湯冷めしてしまうと、重ね着をして隣の男部屋に食事に行くと、これが暑い。
暑いわけだ。部屋が普通の温度なのに、湯上がりで厚着しているのだから……。
服を脱いで食事をしながら散々騒いで部屋に戻ると、やはり寒い。
朝も早いし、布団が一番暖かいと早めに寝ることにした。
真夜中、隣の男部屋側の壁がいっせいにドンドンと鳴り出したので、びっくりして目が覚めた。
何ッ?何ッ?何なの?
起き上がると、まるで壁を隣の男たちが必死でたたいているようだ。壁にかけてある額がガタガタ動いている。
何ごとだと他のふたりも起き上がると、ピタリと止まった。
顔を見合わせたときに旅館の上をものすごいプロペラの爆音が通り過ぎて、窓枠がビリビリ震動する。
それに驚いたのか、どこか近くの部屋から赤ん坊が、火がついたように泣き出す声が聞こえた。
ヒステリックになだめる母親の声もする。
爆音が飛び去った窓の方を見ると、うっすらカーテンに横一文字の白い帯が見える。
何?男共はこんなものをわざわざ教えてくれたの?
カーテンと窓を開けると、暖かい空気が入ってくる。その先の暗闇にエンジン音を響かせたたくさんのトラックがライトを横一列に光らせて走っている。
ものすごい量のトラックだ。
そこへまた、爆音を響かせてプロペラ機の音だけが旅館を越えて降りていく。
きっと自衛隊の夜間演習なのだろうと三人とも思った。
赤ちゃんも泣きやみ、あたりが急に静かになって、トラックの光の行進だけが残った。
外の方が暖かいので、窓を開けて寝ることにした。
カーテンに映る光の帯を見ながら眠りについた。
朝、友人に起こされて、そのまま窓のところまで連れていかれた。
窓の外は霞ケ浦の湖面だった。
え?じゃあトラックの行列は?道は?
急いで朝食をとっていた男性組と合流すると、壁はたたいてないというし、爆音もトラックも知らなかった。
テーブルの食事の用意も自分たち八人分しかない。
仲居さんにたずねると「そりゃお客さんは八人ですから」と笑われた。