河童の話(宮崎県) | コワイハナシ47

河童の話(宮崎県)

宮崎県西臼杵郡高千穂町は神々の郷である。

以前ここに住んでいたある人物がいる。

今、五十を越えた彼女は、他の土地に居を移した。

海の見えるところに住みたいという夢を叶えたためだ。

そんな彼女が小学生のときだった。

寒かったから、冬だったと思う。

遊びに夢中になったことで、帰りが遅くなってしまった。

夕日はあっという間に山に隠れ、すぐさま夜が近寄ってくる。

慌てて走っていると、道路の一段上にある林の中から聞いたことがない声が聞こえた。

〈ひょーぉっ、ひょーおっ、ひょーおっ、ちょーおっ……〉

人が悪ふざけしているような甲高いものだ。

思わず立ち止まり、声のする方を透かし見た。

木と木の間に、子供が居た。

いや、子供ではなかった。

子供くらいの背丈をした、毛むくじゃらの猿のようなものが立っている。

しかし立ち姿が猿ではないし、顔が黒くてよく見えない。

ただ、らんらんと輝く大きな両眼があることだけが分かった。

思わず悲鳴を上げると、相手は凄い勢いで林の中を走って逃げた。

泣きそうになりながら家に着いて、母親に縋り付いて今し方あったことを話す。

「ああ、それは〈ひょうすぼ〉だわ」

ひょうすぼとは、河童である。

「攫われておしりの穴から大事なものを盗られて、ひっけ死んとこやったが」

母親は良かった良かったと繰り返した。

それから似たものは二度と見ていない。

しかし、今も夢に見るほど鮮明に〈ひょうすぼ〉の姿を彼女は覚えている。

宮崎県日向市はサーフィンのメッカである。

素晴らしい波がやって来る浜があるからだ。

サーフィンが好きなある人が、今も覚えていることがあると言う。

それは彼が子供の頃に遡る。

とても寒い時期、海難事故があったと両親から聞いた。

誰かが海で溺れて死んだ、と言うような内容だったと思う。

「危ない場所で泳がない、寒い時期に海に入らない」などの注意も受けた。

ふうんとそのときは思った。

後日、図書室から借りてきた妖怪大図鑑のようなものをリビングで読んでいた。

その中に、ある記述を見つける。

〈河童は、水の中に人を引きずり込み、溺れさせ、尻の穴から尻子玉を取って殺す〉

そうか、と得心がいった。

海や川で溺れるのは、河童の仕業なんだ、と。

が、そのとき、背後から声が聞こえた。

――チガウヨ。

子供のような、舌足らずのような発音だった。

振り返ると何も居ない。

驚いていると、母親がリビングへやって来る。

「お友達が来ちょっと?」

来ていない。ひとりだと恐る恐る答えると、首を捻られる。

「え?何人か話している声が聞こえたんやけど?」

ただただ呆然とするほかなかった。

以降、彼は河童と呼ばれる存在はあると思っている。

だから、サーフィンなどで水の中に入るとき、心の中でお願いをする。

(今日も安全でありますように)と。

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