来訪者(東京都) | コワイハナシ47

来訪者(東京都)

介護士の岡辺敬太さんが勤務する東京都の老人保健施設では、従来のナースコールの機能に加えて即時に会話することも可能な、PHS式の〝オフィスホン〟というものを用いている。入居者の居室、共同浴室、トイレなど、館内各所にこれを設置して、介護士を始めとするスタッフと施設利用者が必要に応じ相互に呼び出して通話しているのだ。

また、正面出入口にもインターホンとして一機取り付けられており、デイサービスの利用者や来客が通話ボタンを押すと、最初に事務所のオフィスホンが呼び出される設定になっている。事務所で電話を取らなかった場合のみ、他の各所で一斉に鳴るのである。

着信履歴や通話記録が相互に残り、会話を録音したり、留守電メッセージを入れたりすることも出来る。

便利なものだが、敬太さんによれば、これがときどき異常な動作をするのだという。

たとえばこんなことがあった──夜勤明けの早朝、敬太さんが館内の共同浴場のオフィスホンをチェックしたところ、昨日午後一〇時過ぎに正面出入口から呼び出された着信履歴が残されていた。

だが、昨夜は八時以降、彼が知る限り、誰も来なかった。夜勤だった敬太さんは、前夜は他の夜勤スタッフと一緒に事務所で待機していた。正面出入口のオフィスホンから呼び出されたら、事務所のオフィスホンが真っ先に鳴り、もちろん着信履歴も残るのだ。また、静かな夜更けの館内であれば、どこにいても音が聞こえたはずだとも思った。実に奇妙だ……。

そのオフィスホンをよく見てみたらマナーモードになっていた。通常、マナーモードにしてはいけない決まりだったので、これも変だったが、とりあえず解除して台に戻した。

すると突然、呼び出し音が鳴りだすではないか!

ギョッとして手に取ることを躊躇していたら、すぐに鳴りやんだ。

着信履歴を見ると、またもや正面出入口の番号が記録されていた。

しかしその後、事務所や他のオフィスホンを調べると、着信があった形跡が無く、正面出入口のオフィスホンがそのとき使われた記録も残っていなかったのだという。

「こんなことが、ちょくちょく起きるんです。ここは元々サナトリウムか何かで、昔はたくさん結核病患者が亡くなったらしいので、そのせいかもしれません」

敬太さんから聞いたことを基にいろいろ調べてみたところ、現在の施設はホームページに沿革を記載していないが、同じ経営母体が昭和初期から同一住所で結核療養所を開設していたことがわかった。……たぶん、あまり公にしたくない歴史なのだろう。

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