Mさんの実家は秋田県のかなり大きな旧家だった。
小学生の頃は、お盆になると必ずその実家で過ごした。
その家のおじさんは材木を扱う会社を経営していた。
Mさん一家は、いつも二十畳ほどもある広い奥座敷で寝たが、床の間にはものすごい数の民芸品や人形が所狭しと並べてあった。それが子供の頃のMさんにとっては怖かった。
この奥座敷はもちろん、家の中は昼間でも静まりかえっていて、外の音が届くことはほとんどなかった。
ところが、夜中になると家の中が騒がしくなる。
キャッキャと何人もの子供たちが楽しそうにはしゃぐ声がする夜もあれば、どたどたどたと廊下を鬼ごっこでもしているかのように走り回る音がする夜もあった。
あははははっと大勢の子供が大笑いする声が何度も聞こえることもあった。
その家には、Mさんと同じくらいの歳の兄妹がいたので、その子たちの仕業だと思っていた。
朝になって「夜中うるさいよ。おとなしく寝なよ」と文句を言うと、「わしら寝てたよ」と言い返された。
おばさんにも言うと「ああそう?」と気にもとめてくれない。
ある晩、あんまり廊下で走り回る音がうるさいので、襖をサッと開けて見てみた。
真っ暗で、誰もいない。
そのあとは気配もなくなって静かになった。
しかし翌朝、起きると床の間の民芸品や人形が座敷中に散らばっていた。
首や腕がもがれた人形もあった。
身に憶えがないのに、元に戻しときなさいとお母さんに頭をたたかれた。
小学六年生になった時に秋田で過ごした夏は、家じゅうなんだか静かだった。
秋田から帰ったその二週間後、おじさんの会社が倒産したと聞かされた。
「それであの時、子供たちが出なかったんだね」とお母さんが言った。
「子供たち?」と聞き直すと「ほれ、お前も聞いてたろ?廊下を走ったり、隣の部屋で騒いだり。あの子たちはね、あの家の守り神だったんだよ。きっと出ていったんだね」
お母さんは子供の頃から知っていたという。
子供の頃から?ちょっと待って!とMさんは思い出した。人形が散らかっていた朝、僕のせいにしたでしょ!
「だってお前、片づけなきゃいけないし、説明の仕様がないじゃないの」と勝手な理屈を言われた。