記念写真に写ったモノ(栃木県日光市 華厳滝) | コワイハナシ47

記念写真に写ったモノ(栃木県日光市 華厳滝)

Cさんは小学生の時、栃木県の日光市へと修学旅行に出かけた。

行程は一泊二日。東照宮を参拝し、華厳滝を巡ってから翌日に江戸村で遊ぶという、お定まりのコースであったそうだ。

「今なら陽明門や眠り猫も興味深いのでしょうが、そこはまだ子供でしょ。江戸村で遊ぶ事しか頭にないもんで、他の見学先がひどく退屈に思えたんですよ」

暇を持て余したあげく、彼はちょっとした悪戯を企てる。

「心霊写真を作ってやろう、と考えたんです」

初日の最終目的地である「華厳滝」は、かねてより自殺者が多い事で知られており、撮った写真に怪しいモノが写ると噂になっていた。

「子供向けの恐い本に、その手の写真が多数載っていましたからね。悪ガキの間でも怪奇スポットとしての知名度が高かったんですよ」

なら、わざと奇怪な写真が撮れるように仕掛けて、あとからみんなを驚かせてやろう。そんな算段を立てた彼は、滝へ向かうエレベータの中で悪友二名に相談を持ちかける。

一人が記念写真の最後列に陣取り、こっそりシャツから腕を抜いて、別の生徒の背後に手をかざす。他のふたりは、その前列に立ち、腕が不在のぶらついた袖そでを自分の身体で隠す。

「これで一丁あがり。誰のものとも知れない手が後ろに写っている、ってわけです」

あっという間に、それぞれの役割が決まった。

エレベータを出て肌寒い地下道を抜けた途端、轟きとともに、荘厳な滝が姿を現した。

白い柵の向こうで、絶壁を裂くようにして白い飛沫が落下している。その様子に啞然とするなか、「早く撮影して旅館に行くぞお」と担任が皆を急かした。

整列のどさくさにまぎれ、Cさんたちはベストポジションをちゃっかり確保した。ふたりと目配せを交わしてシャツから腕を抜くと、隣に立つ女子の後頭部へ手をかざす。

「それじゃあ撮りますよ、さん、にい、いち……はいっ」

カメラマンの合図に合わせて、掌を大きく広げた。

幸い、彼ら三人以外に誰も気づいた様子はなかったという。

「その場はけらけら笑っておしまい。江戸村で遊ぶ頃にはすっかり忘れていました」

他愛たわいもない悪戯を再び思いだしたのは、一ヶ月後。

帰りのホームルームの席上だった。

「……先生、ちょっと皆にお詫わびしなきゃいけないんだ」

いつもはにこやかな担任が、神妙な顔で話しはじめた。

「先月の修学旅行の写真なんだけどな、一枚だけ、渡せなくなっちゃったんだ」

Cさんは、あの時のふたりと顔を見合わせた。教室がざわめくなか、担任が渋い顔のまま話を続ける。

「本当は、東照宮と華厳滝と江戸村の三枚を渡す予定だったんだが……華厳滝で撮影したものだけ、ちょっと、その、カメラマンさんが撮影に失敗しちゃったらしいんだよ」

クラスの皆は口々に「何だよ、ひでえな」「せっかくの思い出なのに」と不満を漏らしている。自分が悪いわけでもないのに、担任はひたすら頭を下げ続けた。

「その様子を見て、三人とも青くなっちゃって。これは絶対あの手が写っていた所為だ、俺らの悪戯で先生に迷惑をかけたんだと思ったら、いたたまれなくなっちゃって……」

他のふたりと相談し、Cさんはすべてをうちあけようと決める。

放課後、三人は職員室を訪れた。突然の訪問に担任はいたく驚いていたが、やがて話を聞くうち、顔からは笑顔が消えていった。

「……お前たちだったのか」

Cさんたちの予想どおり、滝の写真が破棄された原因は「謎の手」にあった。

「写真屋さんから〝これはマズいです〟って青い顔で相談されてな。せっかくの思い出が心霊写真じゃブチ壊しだろ。だから撮影が失敗したって誤摩化したんだよ。まったく」

重苦しい溜息に同級生が「すいませんでした」と涙を浮かべる。担任は何も答えない。厭な沈黙が、しばらくの間続いた。

と、突然担任が大声で笑いだした。

「いや、すまんすまん。本当は怒らなきゃいけないんだが、まんまと引っかかったのが自分でもおかしくて……あまり気にするな。先生もお前たちくらいの年には、いろいろ悪戯をして拳骨を食らったもんさ」

すっかりいつもの笑顔に戻った担任が、泣きじゃくる同級生の頭を撫でた。

「クラスのみんなには、先生から説明しとくよ。お前たちもこれに懲りて、あまり莫迦な真似はするんじゃないぞ。女子の中には、怖いのがキライな子もいるんだからな」

場の空気がほっと和むなか、Cさんは机の上に伏せられた一枚の写真に気がついた。

「それ、もしかして」

彼の言葉に、担任がにやりと笑う。

「お祓いにでも持って行こうと思って、写真屋さんから借りたんだよ。しかし、お前たち凄すごいなあ。これ、どうやったんだ」

担任は、感心した様子で唸うなってから写真をこちらに向けた。

「え」

異様に細い無数の手が、生徒全員の肩を摑つかんでいた。

結局、記念写真は公表されなかったという。

【華厳滝】

栃木県日光市にある滝。落差は九十七メートルあり、その壮観さから日本三名瀑のひとつに数えられる。滝を発見した勝道上人が仏教経典「華厳経」から名づけたといわれている。

一九〇三年、旧制一高の学生であった藤村操が、滝の近くにある樫の木へ遺書を残して身を投げた。エリート学生が世を儚み自殺するというセンセーショナルさが注目を集めた結果、その後四年間で二百名あまりが滝で自殺をはかった。これにより華厳滝は自殺の名所となったわけである。ちなみに、現在自殺者はほとんどいなくなったそうだ。

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