山の中で鳴り響く汽笛 繁藤災害(高知県) | コワイハナシ47

山の中で鳴り響く汽笛 繁藤災害(高知県)

Dさんという二十代の男性から聞いた話である。

その晩、彼は隣県に住むガールフレンドを送るため、県境の山道を車で走っていた。

十二時頃であったという。

眠気と闘いながらハンドルを握っていると、助手席で寝ていたはずのガールフレンドが突然むくりと起きあがって、カーラジオのボリュームをオフにした。

「悪い、うるさかったか」

彼の言葉に、ガールフレンドは黙って首を振り、「変な音がするよ」と窓の外を指した。首をかしげながらカーウインドウを開けた、その途端。

ふあぁぁぁぁぁぁ

笛のような長い音が、真っ暗な森の彼方かなたに響いている。

「何だこれ」

「汽笛じゃないの」

「まさか。こんな夜中に、しかも今どき汽車なんて」

笑っていると、再び山の向こうで音が鳴った。

耳を澄ませば、汽笛らしき音に混じって「うあああああ」「きゃあああ」と人の叫ぶ声も幽かすかに聞こえている。

ぞっとしてアクセルを目一杯踏みこむと、山道を猛スピードで駆けおりた。

翌朝、家族にその事を告げると、傍らで黙って聞いていた祖母が「昨日は繁藤災害の日やけん」と、静かに手を合わせたそうだ。

【繁藤災害】

一九七二年七月五日、未曾有の集中豪雨によって高知県香美市にある繁藤駅付近の山腹が崩壊し、周辺の民家や構内に停車中だった列車を土石流が直撃した大災害である。家屋十二棟に機関車一両と客車一両が飲みこまれ、前日に生き埋めになった消防隊員を救助していた町職員や消防団員も巻きこまれる形となった。土石流は機関車が川の対岸まで飛ばされるほどの勢いであったという。決死の救出作業がおこなわれたが、最終的には六十名の方が亡くなられた。現在は近くの国道脇に慰霊碑が建てられている。川に転落した機関車は機器がわずかに回収されたものの、今も一部が川底に埋没したままであるという。

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