シオキバ(大阪府) | コワイハナシ47

シオキバ(大阪府)

肝だめし系の話というのが、あまり好きではない。

若者が心霊スポットを訪れたあげく、不穏な人影を見たり車にトラブルが起こったりとおぼろげな怪異に遭遇し、這々の体で逃げ帰る……八割方、そのパターンなのだ。手垢に塗まみれた、かつ噂の域を出ない話ばかりとなれば、私でなくとも飽きがくるのは当然だろう。

だが、数多くの伝聞が流布されるという事は、その元になった実話があるという事でもある。そして、それらはやっぱり怖い。

定型を嘲笑うかのように、先が読めずに恐ろしい。

「ウソやろ、って言われてもしょうがないと思いますよ。もし他人から聞いたら俺でもそう思うでしょうから」

大阪に暮らすYさんのそんな台詞から、この話ははじまった。

数年前、彼は新車を購入した同級生に誘われ、友人四名でT町へ行ったのだという。

T町は大阪と隣県の境にあたる町で、信仰の対象になっている霊山がある。と、同時にその山は、数々の不思議な現象が起こる場所としても広く知られている。

彼らも、そんな現象を期待しての訪問だった。早い話が「肝だめし」に赴いたのだ。

昼間という事もあって、怖気を感じるような場所はほとんどなかった。

「生首谷やで」と友人がはしゃぐ渓谷は緑が美しいばかりであったし、霊が出るというトンネルも、ただ薄暗いだけだった。

「もう帰ろうや」

飽き飽きして後部座席から告げるYさんに、運転手役の同級生が笑う。

「もう一箇所だけ行くぞ。本日のメインディッシュやで」

やがて、トンネルを抜けた先の路肩に車を停めると、同級生は遊歩道を歩きだした。

彼に誘われるまま歩く事およそ十分。到着したのは、キャンプ場の炊事場を思わせる屋根が架けられた、小さな祠だった。

「ここはな、シオキバや」

同級生の講釈によれば、ここはかつて罪人の首をはねた場所なのだそうだ。処刑された数は軽く千人におよび、今も彼らのすすり泣く声が夜な夜な聞こえるのだという……。

「いや、おかしいやろ」

同級生の言葉を、別の友人があっさりと否定した。

「処刑場って普通は町の中にあんねんで。見せしめにすんねん。こんな山奥に作ったら、首斬るほうも毎日ハイキングやで。何でこんな不便なところに作らなアカンの」

「そんなん知らん、俺が作ったんちゃうわ」

自説を疑われて立腹したのだろう、同級生は祠の中へずかずか足を踏み入れると、中に立てられていた石の塚を、思いきり蹴飛とばした。

「おまっ、何てコトしとんねん」

「うっさいボケ、お前ら信じひんのやったら、何してもかまへんやろ」

怒りで顔を真っ赤にした同級生は「ほら、お仕置きしてみい」と呼びかけながら、塚を蹴り続けている。二十分ほど経っても、彼はいっこうに落ち着く気配を見せなかった。

参ったな、どうやって機嫌をとろうか。

Yさんが他の友人と顔を見合わせた、その瞬間。

電話が鳴った。

全員の携帯電話が、いっせいに鳴った。

「うわ、むっちゃビビった……あれ、オカンからや」

「ウチもオカンや」

「ホンマか、ウチも実家の番号や」

「俺んとこは姉ちゃんから電話やで、何やねんこれ」

訝しみつつ、全員が携帯電話を耳にあてる。数秒後、ドミノのようにそれぞれの口から「えっ」という声が続けざまにあがった。

「……ウチのオトン、事故った」

「えっ、俺んとこも兄貴が怪我したって連絡やったぞ」

「ウチ、妹がバイクでコケたらしい」

三人とも、家族の災難を告げる連絡だった。

「……なあ、お前んとこの電話は、何の用事やってん」

呆然としながら、Yさんはひとり黙ったままの同級生へと声をかけた。肩をがっくり落とした同級生が、小さな声で呟つぶやいた。

「オカン、死んだて」

「……結局、あそこにおったヤツ全員の家族が、交通事故やら職場での怪我やらで病院に運ばれていました。ウチは、ホレ」

話を終えて、Yさんは隣に座っている男性を指さした。

男性が「兄です」と会釈をする。

「私は、納屋を掃除していたら壁に下げてあったはずの鎌が飛んできて……このとおり」

兄と名乗る男性が、首に巻きつけていたストールをほどく。

スナック菓子の箱の開封口を思わせる波うった傷が、首をぐるりと飾っていた。

「おかしいですよね。刺さったならともかく、刃が勝手に暴れたんですよ……まるで」

首を斬ろうとしたみたいに。

呼吸音の混ざった、ざらつく声で男性が零した。

現在、Yさんを除く他の二人は大阪を離れている。

くだんの同級生は、その後連絡が取れなくなったままだという。

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