海の歌声(三重県) | コワイハナシ47

海の歌声(三重県)

昭和も終わりの出来事だと聞いている。

Pさんはその夜、T市の海浜公園近くをボーイフレンドとドライブしていた。

若いふたりであるから当然よからぬ展開になる。さすがに海岸には人の姿がちらほら見えたため、川に近い岸壁に車を停めて、そこで事に及ぼうとしたのだそうだ。

抱き合いながらシャツを脱いでいた最中、彼氏が「なんだ、この声」と顔をあげた。

確かに、何処からともなく人の声が聞こえる。その数が、一人や二人ではない。

合唱のようだった。

暗闇に目を凝らしたが、人の気配などまるでない。

「歌……だよね」

「こんな時間に?」

何となく興を削そがれ、その夜はそのまま家に送り届けてもらった。

数日後。

家族そろって夕飯を食べていた折、テレビの歌番組を見ていたPさんは、唐突にあの歌声を思い出した。

「そういえば、この間ね」

何をしようとしていたかは省いて事の次第を告げる。その途端、父親が箸を落とした。

「それ……たぶんあの子たちじゃないか」

父親がまだ小学生の時分、地元の中学生が海で高波に吞のまれ、多くの生徒が亡くなるという事故があったのだそうだ。

「事故の翌年に同じ中学校へ進学したから、鮮明に憶えているよ。場所も、ちょうどその辺りだったはずだ……なあ、その歌、どんな歌だった」

おぼろげに憶えていたフレーズを口ずさんだ途端、父親は顔を覆って慟哭しはじめた。

「中学校の校歌だ……事故の次の年に制定されたんだよ」

歌ってみたかったんだろうなあ。

静かに呟いて、父親はそのまましばらく泣き続けたという。

もう一度あの歌声を聞いてみたくて、彼女はその後も海沿いに足を運んでみたそうだ。だが、何度訪ねてみても歌声はなく、浜風がぼうぼう吹いているばかりであったという。

三十年以上も前の話である。

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