駄洒落の罰(奈良県) | コワイハナシ47

駄洒落の罰(奈良県)

私がお気に入りの話のひとつである。

イラストレーターのBちゃんが中学生の時、修学旅行に出かけた折の出来事だそうだ。

その日、彼女のクラスは奈良市内を巡っていた。

彼女自身は親戚が僧職であったのも手伝い、奈良の大仏や南大門などをとても興味深く見学していた。古都の風情あふれる町並みも、とても好ましかったという。

ところが、そんな雰囲気をぶち壊しにする人物が彼女のクラスに存在した。

お調子者で知られる、Rという男子生徒である。

Rは神社仏閣にはてんで興味がないようで、何処へ行っても悪ふざけばかり繰り返している。特に酷いのが、彼自身十八番と言い張る「駄洒落」だった。

「ぶつぞうをぶつぞう!」

「しかだから、しかたない!」

むろん、これで笑うクラスメイトなど一人もいない。しかし彼はそんな白けた空気など何処吹く風とばかりに、行く先々でお寒い駄洒落を連発した。

「もう最低。五月の奈良が氷点下でしたよ。先生も呆れちゃって、途中からさっぱり注意しなくなったもんだから、Rはますます増長していましたね」

やがて、一行は法隆寺へと向かう。

東大寺の荘厳さや美麗な春日大社に見とれている時は、まだ良かった。

「問題は、大宝蔵院の拝観でした」

大宝蔵院とは一九九八年に完成した、法隆寺内の宝物展示施設である。銅造阿弥陀三尊や夢違観音など、文字どおり国宝級の仏像や壁画が展示されている。

「私たちが拝観した前年に建立されたばかりだった所為か、境内の雰囲気からちょっぴり浮いていたのを憶えています」

皆が添乗員の解説に聞き入る中、ここでもRはやりたい放題だった。

「どうぞうあみだを、どうぞ!」

「ゆめちがいかんのんは、ゆうめいですね!」

クラス全員の憤りが頂点に達しかけた頃、皆は次の施設へ移動した。国宝の百済くだら観音が安置されている、百済観音堂である。

中に入るなり、「きれい!」「かっけえ!」とそれぞれが感想を漏らす。それほどまでに、百済観音像は美しかった。

「この百済観音は、法隆寺の仏像の中でも身体が細い事で有名なんですよ。ダイエットを祈願されていく女性の方も、たくさんいるんですって。皆さんも、いかがですか」

添乗員の和やかなジョークに女生徒たちが笑う。その様子を見て、いらない対抗心を燃やした人間がいた。Rである。

突然彼は皆の前へ躍り出るや、観音像を指さして高らかに叫んだ。

「くだらかんのんなんて、くだらねえ!」

得意気な顔でRが全員を見渡した、その瞬間。

ぱきん、と音がしたかと思うと、皆の見ている前で、彼の指が垂直に折れ曲がった。

「骨折でした。人差し指の第二関節が、きれいにパッキリ折れていたそうです」

Rは、残り一日を待たずに修学旅行を離脱した。

「仏罰だ」と、クラスではしばらく噂になったそうである。

ここからは、余談になる。

修学旅行を終えて数ヶ月後、Bちゃんは家へ遊びに来た親戚の住職に、一連の出来事を伝えた。しかし親戚は「仏様はそんなアホな事で仏罰なんか与えません。それはきっと、皆の殺意が伝わったんでしょう」と一蹴したそうだ。

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