なんでわかった?(京都府) | コワイハナシ47

なんでわかった?(京都府)

田畑秋人さんは一八歳のとき、長野県の実家を出て、進学した大学のある京都府で独り暮らしを始めたが、三ヶ月も経たず、酒浸たりの日々を送るようになってしまった。

講義は難解で、大学に行くと劣等感にさいなまれるので、下宿しているアパートに引きこもり、外出するのは近所の酒屋に行くときだけ。当然、友だちも出来ない。

春、田舎では家族総出で、彼の出立を見送ってくれたのだった。彼は長男で、小中高と成績優秀だった。みんなの期待を背負っているという自覚がある。こんなだらしないことになっているなんて、田舎にはとても知らせられない……。

盆暮の帰省時には必死で誤魔化したが、二年の前期が終わる頃には、もう次の学年に進級できそうにないことが明らかになってきた。

そこでますます酒に逃げた。朝から晩まで酔っている。もう風呂にも滅多に入らず、廃人寸前、いや、すでに……という危機的状況になった。

このままだとアルコール中毒で死んでしまう。思い切って実家に電話をかけてみようか。日中なら電話口に出るのは母だろう。

彼はためらって、ためらって、ためらった。電話を手にして三〇分も迷っては酒瓶に手を伸ばして、振り出しに戻る。そんなことを何度も繰り返した挙句、己の情けなさに涙しながら酔いつぶれて眠ってしまった。まる二日も布団に横たわって過ごし、いよいよ死にそうだと思ったが、酒が尽きると酒屋に行くために仕方なく起きた。

外は明るかった。アパートのポストにチラシが溜まっていた。チラシに引きこもりを糾弾されているように感じ、苛いら立だちながらポストの中身を掻き出していたら、分厚い封筒があるのに気がついた。送り主を確かめた途端、立っていられないほどの震えに襲われた。

母が送ってきたものだった。這うように部屋に引き返し、玄関で封筒を開けると、重ねて畳まれた便箋が何枚も飛び出して、床に散らばった。

むさぼるように手紙を読んだ。

冒頭で「元気でやっていますか?」と問いかけた後、母は突然筆を執った理由として、夢枕に秋人さんが立ったためだと述べていた。母の夢の中で、彼は「もう大学に行けない」と訴えながら子どものように泣いたのだという。それが秋人さんが電話をかけようとしてかけられなかったあの日の夜のことだとわかると、そこから先には家族の近況報告が書かれているようだったが、涙で霞んで読み進むことができなくなった。

彼は迷わず電話をかけた。電話口に出た母に、「なんでわかった?」と尋ねた。

母は「親子だから」と答えた。三〇年ほど前の出来事である。

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