悪霊払いの男(広島市) | コワイハナシ47

悪霊払いの男(広島市)

従弟の信行は福岡生まれ。弱ったり困った人に助けを求められることが多い。生まれつき霊感がある信行は、私にも余計な事を言う。

「徳子ちゃん、後ろにまた強い霊がついとる」

「危ないやつ?」

「いや、ご先祖様の誰かか、有名な強い人。開運してくれる」

「そんなら良かった」

「でもこの家は変なのが憑りついとるっちゃ。出た方がよかよ」

「ちょうど河川工事で解体するとこやったわ」

「なら丁度よか。一緒にお祓いもしなっせ」

これが彼との普通の会話である。

ここ数年、信行は建築の仕事の関係で広島市に住んでいる。

建築関係者はこぞって「お祓い」を重要視する。それは地に対する霊というものが当たり前にいるものだという観念にある。

特に広島はその信仰が強いと思われる。

信行も同じくお祓いが好きだった。

場所は特定して言えないが、広島市の某所にてひそやかにお祓いの儀式は執り行われている。

今日も飲み友達の石原に頼まれて、美紀という20代の女性をお祓いに連れて行くことになった。

美紀は地味だが目鼻立ちが綺麗な子。しかし信行は見たとたん身の毛がよだった。

(こいつ、なんか動物霊か低俗霊がいっぱいついとる……)

聞くと、子供の頃見てはいけないものを見て以来、霊に憑りつかれやすく、家を出ることもできないため、学校にも行けず引きこもり生活をしているという。

「外には出れんのか?」

「出たら、違う霊に憑りつかれるから」

「どんな霊が憑りつくんや」

「多分、そのあたりに倒れてたり、首くくったりしてる人の」

幾分ぞっとしながら、信行は運転を続ける。

「今日のお祓い行けば、しばらくは大丈夫だけん」

美紀は黙って座っている。

普通にかわいい子だけどな……と信行はちらりと見て運転を続ける。

お祓いの場所へたどり着いた。

バックして駐車し、隣を見ると美紀の顔がこっちを向いて目を見開き、ニカっと歯をむき出しにして笑う。

全く別人の顔つきになっている。信行はぎょっとする。

「ケケケよくもこんなとこに連れてきたな」

「う、うわー!」

美紀が口を開け、大蛇のように信行の肩にかみつく。

「ギャー!」

「お前は邪魔だ、殺す!」

女とは思えない力で、信行の首をぐいぐい絞め始めた。

「や、やめろ……」

お祓いの先生が走って出てきた。手に榊を持って酒瓶を持っている。

車のドアを開け、美紀に酒を振りかける。

「うぎゃあああ」

「××退散、××退散!」

榊を美紀に叩きつけ、背中を叩く。

美紀が全身の力を抜き、へなへなと倒れる。

「これで少しは大丈夫。ささ、中へ連れて行きましょう」

「は、はあ」

今まで見たこともないようなハードな霊に少し信行は困惑した。

お祓いが終わり、美紀はぐったりとして寝ている。お祓いの先生、N氏が信行の肩に榊を載せる。

「これは何をしてるんですか?」

「君も肩に色々乗せてるからね。ここで浄化しておく」

「僕にも何か憑いてるんですか?」

「うん、まあね。この頃頼まれごと多くない?」

「まあ仕事柄……お祓いも2、3件頼まれてるから連れてきます」

「今日の子の友達じゃない?」

「あ、そうなんです。紹介者が同じ仲間でして」

「彼女が多分相当重いの持ってて、友達に分散されてるからね」

「分散って、知り合いになるのもまずいんですか?」

「君は強い霊魂が背中にあるけどね、低俗霊はそれでも足を引っ張るから」

「先生、僕はどうしたらいいですか?」

「まずこの子とは縁を今日限り切りなさい。その友達もだ。乗せてきた車には塩をまいて、家に帰ったら塩を入れたお風呂に浸かりなさい」

「わかりました。この子は僕も今日が初めてなんで、縁なんてないです」

「でもきっと君はこの子に関連した子をまたここに連れてくるよ」

「いや、もう絶対関わらないです。頼まれてたけどやめます」

「もし連れてくる時は、もう一人男性を乗せてくること。そうしないと君まで憑りつかれる可能性あるからね」

「わかりました」

信行は美紀をタクシーで帰し、N氏にお祓いしてもらった車に塩をまき帰った。

数日後、信行にお祓いを頼んできた石原がまた連絡をしてきた。

「いやあ、この前かなりヤバかったし、もう来るなってNさんからも言われちょるんで」

「そう言わんと頼むわ」

「あの美紀ってのがひどい悪霊憑いてて、あの子の友達は絶対嫌です」

「じゃあ、場所教えてよ、俺が連れて行けばいいんだろ」

「うーん。でも一見さんはダメだしな。じゃあ石原さんが一緒ならいいですよ」

「わかった。明日一緒に会社連れてくし、よろしゅう頼んます」

電話を切った後、会社の電話が鳴り信行は考える余裕がなかった。

次の日、加奈子という小柄な女性と石原がやってきた。

「よろしくお願いします」

「ああ、この前の美紀さんの友達?」

「はい……」

石原が妙に汗をかいている。

「今日はえらい暑いな。春先なのに夏みたいや」

「石原さん太り過ぎなんですよ」

「信行君、言うねえ」

笑って信行の車に乗り込む3人。車の中で石原が話す。

「この子はね、美紀さんからいつもお祓いに行くの邪魔されるんだそうで、今日は誰にも内緒で出てきてな」

「何で邪魔されるんすか」

「多分、不良仲間と悪霊仲間ってのは同じようなもんで、足抜けされると困るんだろ。お祓いは悪霊の天敵だからな」

石原さんの携帯が鳴る。

「もしもし、石原です」

驚いた表情の石原。電話の声をみんなに聞こえるようハンズフリーにする。

「加奈子連れていっとるんでしょ。私は全部わかっとうよ」

重く暗い地底から響くような美紀の声に、3人がぞっとした。すぐ電話を切る石原。

「こいつ、やっぱり邪魔しにきた……うっ」

石原が左胸を苦しそうに押さえる。

「どうしました石原さん!」

「胸が……苦しい……」

石原の口から泡が出て白目を剥く。

結局お祓いまでは行けず、救急病院に車を走らせた信行。

石原は心臓発作で2日後に亡くなった。

加奈子は病院からタクシーで帰ってもらった。

その日以来首の調子が悪い信行は、車のお祓いもかねてN氏の元を訪れた。N氏は信行の顔を見るなり、榊で肩を叩き塩をかけた。

「色々しょってきたみたいやのう。おっさんが肩に乗っとった」

「ええっ。この前言われた通り、あの子の友達連れてくなら男性をと言うんで石原さんって人乗せたら、車の中で心臓発作になったんで来れなかったんです」

「その人、亡くなったでしょ」

「はい。2日後に……」

「君の身代わりを作っておいて良かったのう。じゃがまだ肩に手があるわ」

N氏はそう言って信行に呪文のようなものを唱え、背中を叩いた。

信行はそれ以降、美紀にも加奈子にも連絡することはなかった。

思えば、石原のような仲介者さえいなければ出会うはずのない悪霊達であった。

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