高暮ダムの朝鮮人亡霊(広島県庄原市高野町) | コワイハナシ47

高暮ダムの朝鮮人亡霊(広島県庄原市高野町)

信行の友人に康樹君という、若いころは暴走族にいましたというのが自慢のやんちゃな人がいた。仕事は塗装工だった。

信行も地元の福岡では知られたヤンキーだったので意気投合して話していた。

康樹君は信行とは違いまったく霊感がない。そのためか、怖いスポットに行って肝試しするのが趣味だった。

怖がる女子を連れて行き、自分のすごさを見せるチャンスでもあった。

今から15年以上前の話だ。

夏の夜、女性2人と康樹君とA君でミステリースポット巡りをすることにした。

まずは大本命、高野町の高暮ダム。ほぼ県境にある山の中だ。

ここは1940年に山あいに作られたダムで、8年かかって完成された、現在は中国電力のダムである。

ただ地元では有名な噂がある。

戦中強制労働者として朝鮮から連れてこられた何千という人々がこのダムを作り、あまりの過酷労働に自殺者や過酷な生活で人の死が多かったという。

亡くなった後も骨が朝鮮に戻されることなく、無縁仏がほとんどだったとか。

ここを語るのは戦後もタブーとされていた。

「けど、ここに行った奴はみんな口揃えてヤバかったって言うなあ」

「だから行くんじゃ」

山を登る間も木々はのしかかるように前を閉じていくよう。バサリと枝が折れてボンネットに落ちた。

「ひえええ」

「枝が落ちただけじゃ。気にすんな」

女性二人は少し怖がり始めた。

「ここ、白骨ダムって言われてるらしいよ」

「結構死んだのか」

「このダムの下に埋められてるって話だって」

「じゃあ幽霊たくさん見えんな」

「湖も変な名前だもんね、いかにも鎮魂してますって感じ」

「考えすぎだろ〜」

康樹君は笑いながら運転する。

ダムの見えるところまでいくと、暗く静かに広がる湖が見える。

しかし暗すぎてよくわからない。懐中電灯をつけて、山とダムを照らす。

「何があるかもわかんねえな」

「もう行こうや。山だからか冷えるのう」

30度くらいはあったはずなのに、半袖では寒い。

水が近いせいか、山あいだからかとも思うがさっきまで感じていた体感温度とはまるで違う。

「待てよ、ここから先道あるやん」

A君は面倒な顔をして

「もうやめようや。見たからこれで帰ろう。遅くなる」

「今夜は女の子も一緒に、もっと違う探検するって言ってたやろ」

車をもっと細い山道に戻し、進ませる康樹君。

しばらくするとダムの上まで近づけた。

当時は街灯もなく、車のライトをハイライトにしてやっとたどり着いた。その間、後ろの女性たちはずっと話をしていた。それがだんだんヒソヒソとした話し声に変わっていった。

康樹君とA君はだんだん寒気が増してきた。このままだと風邪を引きそうだ。

「これ以上行っても、ようわからんな」

「もう戻ろうや」

一番上の広い道路でUターンをする。

「俺、せっかく来たし、上からダム見てくるわ」

「やめや、もう帰ろうや」

「ビビんな。なあみんなどうする? 見に行くか?」

A君が随分怖がるので、ずっと話をしている女性の方へ振り向いた。

A君も一緒に振り向いた。女性二人は完全に寝ていた。

「あれ、今までずっと話してなかったか?」

「確かに、俺も声聞こえてた」

そして二人共前に向き直ると、フロントガラスから何人もの顔が車を覗いていた。顔に手ぬぐいを巻いた、昔の土木作業員のような人たちだった。

「うわああああ」

「ぎゃあああ」

そこからどうやってUターンさせて戻ったか康樹君は覚えていない。

A君はほとんど気を失っていた。また後ろの女性達も寝ていたのではなく、気を失っていたようだ。

フロントガラスにはしっかりと何個も手の跡がついていた……。

あのヒソヒソ声は女性たちの声ではなかった。今思うと日本語だったかもわからないと康樹君は言う。

ひょっとすると、あの朝鮮労働者の霊が……。この話はしばらく4人共話すことができなかった。話して振り返ると彼らがいるように思うから。

ここでは、未だに骨が掘り起こされるなど、死者を多数出した工事現場としても知られる。ダムを作るのにそんなに人が死ぬのか? と疑問に思うが、誰がどう死んだかなど、この地では戦時中に何が起きたか、話したがる人などいない。

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