水子のリリー(広島県福山市) | コワイハナシ47

水子のリリー(広島県福山市)

増田美香さんは出来ちゃった婚で20歳で結婚し、21歳で男の子を生んだ。名前は海人。もう2歳になる。

旦那は市場の仕事をしていて、朝が早い。夜は8時には寝る習慣がある。

だが、休みの前の日だけは飲んでくるのか夜遅く帰ってくる。

ここ1年ほどそういう日課が続いていた。子育てで忙しく美香さんも海人君にかかりきりで、旦那がいない方が楽だった。

美香さんに異変が起きたのは、その頃だった。

海人君がアパートの窓から身を乗り出し、落ちかけた。

近所の人が見つけて慌てて駆け付けたからよかった。海人君に聞くと

「弟が呼びにきたんだよ」

「どこから」

「あの雲に乘って迎えにきたんだ。乘らないか? って」

「……それで窓から出ようとしたの?」

「うん。リリーって名前の弟。また来るって行っちゃった」

「……また来るって、そう言ったの?」

「そう。ママが来たから行っちゃった」

美香さんはその話に少しぞっとした。このくらいの子供は変な事を言うが、霊が見える時期でもあるというから。お腹の中にいたことも、2歳くらいまでは覚えているという。

その次の日、海人君と出かけるため、美香さんはアパートの駐車場に向かおうとしていた。海人君は部屋の前で待たせ、階段に足をかけたときだった。

ドンっと背中を押す感じがあり、下まで落ちてしまった。

「ママー! ママー!」

階段の上で海人君が叫ぶ。美香さんは動けず救急車で運ばれた。幸運にも右腕を複雑骨折しただけで済んだが、首の骨が折れてもおかしくないような状況だったという。

美香さんは背中を押された感覚が忘れられない。大人でもない、子供のような手だった。でも海人君は玄関の内側にいたから押す訳がないし、ママを押す訳もない。

美香さんの友人に霊感の強い男性A氏がいる。アパートに何か霊でもいないか心配になって美香さんは電話をかけた。するとすぐにやってきた。

「この家に誰かいるね」

A氏は美香さんの家に来たとたん言った。

やっぱり。この界隈でも安い物件だし、何より古いし……美香さんは思いをめぐらせていた。

「引っ越ししたほうがいい?」

A氏は首を振った。

「美香ちゃん、今まで産めなかった子供いる? 海人君産む前に」

「いるわけない! 結婚だって海人を妊娠したからやったくらいなのに」

「だよね。じゃあ、旦那さんにはそういう子供いない?」

「旦那に?」

「多分いると思う。それもごく最近、命を失った子が。彼の子供じゃないかな」

「何で私たちのところにきたの?」

「生まれなかった子は、自分の父親が一緒にいる女性も母親と思うからさ」

「……どうして?」

「自分を知ってほしい、愛してほしいって願うからだよ」

「……そういう子、霊はどうしたらいいの?」

「きちんと供養することだよ。やってないんだと思う。病院行って終わりにしてるんじゃないかな」

美香さんは驚いたが、ひょっとしてと思い、旦那にその話をした。

「あんた、リリーって子供知らない?」

「えっ!」

旦那はまさかの告白を始めた。

ここ1年で旦那に彼女ができていた。そしてその彼女が妊娠してしまった。

だが3か月くらいで事故で流産してしまった。それも原因で別れてしまい、供養など何もしていないという。

浮気がバレるのを恐れて、美香さんには当然ずっと黙っていたのだ。

もちろん美香さんが激怒したのは当然だが、意外にも違う事で怒られたので、旦那は驚いた。

「バカ! その子のためにちゃんと供養しろよ!」

「わ、わかった。ほんとにすみません」

旦那と美香さん、海人君で水子供養に行った。

それ以来、海人君の事を誘いに来るリリー君は現れなかった。

偶然だろうが、浮気相手の名前は「百合」さんだった。彼女は子供ができたら、璃々矢か凛々子にする予定だと言っていたそうだ。

生まれてこられなかった命も同じ命。きちんと供養していただきたい。女性のお腹にあるだけで、父親の命も受け継いでいるのだから。

今では海人君も14歳になった。増田家は今も仲良く暮らしている。だが旦那さんは、海人君が学校の友達の名前を出すたびに、ドキッとしている。

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