イチジャマア(沖縄県) | コワイハナシ47

イチジャマア(沖縄県)

その夜志保さんは、賢司さんを自分の部屋に呼んで話を聞いた。

「今日会った女がね、ユタだったんだけど、こんなことを言ってたのよ。心当たりある?」志保さんは今日聞いた話を詳しく賢司さんに話してきかせた。

最初のうち、賢司さんは「ない」と言い張っていたが、やがて徐々にこんなことを言い始めた。

「姉さん。先月別れた彼女がさ、最近だけど毎日職場に来て、僕に画鋲を渡すんだよ」

「え、何ですって?」

「うん。目新しい、金色の画鋲。お守りだって言うんだけど、怖くてさ。いつも会社の地下駐車場の車の所にいて、画鋲を持ってる。どうもおかしいなと思っていたんだけど、画鋲を受取って礼をいうと、そのまま帰ってくれる。だから仕方なく画鋲を受取って、そのままにしてたんだ。もう二週間になるかもしれない」

「その間、ずっと画鋲を受取ってたの?」

「体調を壊すまでずっとね。でもさ、三日前ぐらいから、彼女、部屋にも来るようになったんだよ」

「彼女、来てないわよ」

「そんなはずがない。朝の十時くらいだったか、ドアが開いてあいつが部屋に入って来た。見舞いに来たんだと思ったけど、パソコンの横に画鋲を一個置いて、それから帰って行った。実は夕方にもやってきたよ。パソコンの横に、画鋲が五つ置いてあるよ」

そこで二人で部屋に戻ってみたが、パソコンの横に画鋲は一個もなかった。

「全然ないわよ」

「おかしいなあ。さっき見た時は確かにあったんだけど」

志保さんがざっと部屋の中を見渡しても、画鋲が刺さっていたりする箇所はひとつも見つけられなかった。

そこで、母親の知り合いで糸満に住む国吉さんというユタの女性が呼ばれた。なぜ国吉さんが呼ばれたかというと、彼女も以前は仕事としてイチジャマを飛ばしていた経験があった。イチジャマを飛ばす者のことを方言でイチジャマアという。

沖縄が南山、中山、北山に分かれて戦争をしていた時代、ノロやユタなどのいわゆるシャーマンたちは、敵を倒すためにイチジャマを飛ばした。それが彼らの役目であり、軍勢をイチジャマによって守護していたのだ。国吉さんはその家系を引き継ぐイチジャマの使い手、イチジャマアであった。

現在はその仕事は受けていないというが、だからこそ、イチジャマで被害を受けているものに対しては、非常にはっきりとした対処法がわかるという。

国吉さんは一度大嶺家に来て、家と敷地の中を見て回った。するとスズメバチが巣を作っていたリュウキュウ松の木に、いつの間にかたくさんの画鋲が突き刺さっているのが分かった。その数は外してみると二百個以上にものぼった。

国吉さんは一個だけを残してそれを外し、残りはみんな捨てさせた。

「これはその女がつけたものみたいだね。だから女の念がそこにある」

それから国吉さんは五寸釘を十三本、その画鋲の周囲に打ち付けた。打ち付けながら、まるで呪文のような言葉を延々と唱えていた。誰にも意味が分からなかった。

それから木の根元にお米とお酒をお供えして、すべては終わった。

そのあと、国吉さんと賢司さんは二時間ぐらい、二人で話し合った。話の内容については志保さんは立ち入って聞かなかった。だが賢司さんが少し話したことから推察すると、賢司さんが前の彼女と別れたのは彼の二股が原因だった。だから前の彼女はわざとイチジャマを飛ばして、憎しみをそれに転化しようと考えたのだった。

あれからは庭に死んだ動物が投げ込まれることも、スズメバチが巣を作ることもなくなった。だが毎日のようにトンボや蛾や蝶やカナブンが、家の窓に体当たりして死ぬことが起きるという。あれから賢司さんの前の彼女の消息は分からないので、それを止めることは出来ないらしい。幽霊は説得して天国に上げられるが、イチジャマは説得することが出来ないから厄介なのだという。

つい最近のこと。玄関に死んだタマムシが一匹、落ちていた。

拾い上げると、腹の部分に目新しいピカピカの画鋲が一個、刺さっていた。

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