庭のヘンダソン その2(沖縄県) | コワイハナシ47

庭のヘンダソン その2(沖縄県)

「だから結局、まだあそこにいるんです。ヘンダソン」仲村さんは、半分恨めしそうな顔で、庭のブランコを睨みつけた。

それから私は、興味があったので庭のブランコに乗ってみた。何の変哲もない、アメリカ製の白いブランコだった。その日は残念ながらヘンダソンとご対面することは叶わなかった。

それからしばらくしたある日のこと。仲村さんの奥さんの知り合いが本土に転勤することになり、くだんの庭でお別れパーティが開かれることになり、私も招待された。お別れパーティには三十人以上の人が訪れて、庭でバーベQやら、花火やら、簡易ビアガーデンやら、いろんな事をして楽しい夜を過ごした。だが私は最初から嫌な気分を感じていた。こんなことを書くと、さも私に霊感があるように思われるだろうが、そうではなく、ただ最初からずっと事あるごとに鳥肌がたってしまったのだ。何かいるぞ、という感じである。

やがてパーティも佳境に近づく頃、中村さんはパーティの客の中に、見慣れない黒人男性の姿を認めてしまった。見た瞬間、思わず名前を口走ってしまったほどだった。

「ヘンダソン……」すぐさま全身がぞぞぞっと総毛立った。

彼はおよそ身長は百九十センチ、大柄で、少し太っている。髪の毛は短く、真っ白な軍服を着ている。ブランコではなく、庭に生えているガジュマルの木の傍に立ち、こちらをぼんやりと見つめていた。顔までははっきりと見えなかったが、仲村さんはこれまで、こんなにはっきりとした死人の魂を肉眼で見たことはなかった。やがてその姿は陽炎のようにゆらめいてから、すっと闇の中に溶けてしまった。

ヘンダソンが現われた後のパーティは、なぜか急激につまらないものになってしまった。まるで世界が一変してしまったかのようだった。招待客の何人かが肩が強烈に痛いと言い出した。子どもの一人がいきなり庭に嘔吐して、他の子どもは自転車に乗って溝にはまり込み、脚に大きなスリキズを作った。仲村さんの奥さんも気分が悪いと言い出し、今まで点いていた花火のための蝋燭が点かなくなり、百円ライターを何度も点けている内にそのライターが手の中でばらばらになってしまった。庭でトーキング・ヘッズを小さな音量で流していたラジカセもいきなり停止してしまった。別に全てがヘンダソンのせいだとはいわない。だが仲村夫妻と私は、これには少なからずあいつがからんでいると目星をつけていた。

結局そのパーティは途中で自然にしぼんでしまう形となり、本土に転勤する知人の方には悪い思いをさせてしまった。

でも仕方がない。これは、人間の仕業ではないのだ。

そんなパーティから一週間後、新しいユタを呼ぶというので、私は再び仲村家にお邪魔した。やってきたユタは、わざわざ北部の今帰仁なきじんからやってきた男性で、年の頃は五十歳くらい、ちょっと古めかしい青のBMWに乗っていた。

ユタは家の中で自分の後ろについている神様にお伺いを立てると、庭に行って東側の角でヒラウコーを焚き、ウガミをし始めた。一通りウガミが終わると、家の中に戻って私たちと話をした。

そのユタによると、男性の名前は確かにヘンダソンというらしかった(私はヘンダソンのファーストネームを是が非でも知りたかったのだが、それまでは分からなかった)。おそらくこの家に住んでいた当時、戦争での体験からか病気になり、それを苦にして自殺したということだった。娘とよくブランコに乗って遊んでいたらしい。自殺したのはブランコではなくて、ガジュマルの木にロープをかけて首吊りをしたようだった。またヘンダソンは日本人に対して恨みを抱いているとも聞かされた。当時不倫をしていたか何かで、日本人の女性と付き合っていたが、ヘンダソンに対して怨恨めいたことをいったらしく、それも自殺の要因の一つになっているとユタは語った、

「それとあんたたちはここから引越したほうがいい。あんたと黒人の幽霊は波長が合うからダメさ。向こうは電波で、あなたはラジオだよ。わかるでしょ?」

そしてユタは、ダメ押しで気のようなものを家の敷地内に込め、帰っていった。

それから、仲村夫妻がどうなったか。

みなさんはきっと、仲村夫妻はすぐにその場所から引っ越して、めでたしめでたしになったと思われるかもしれない。そしてヘンダソンの幽霊は今でもその外人住宅にいて、ブランコを漕ぎつづけているのだろうと。だがその予想は微妙に間違っている。

仲村夫妻は確かにそれからすぐに引っ越しをした。場所は奥さんの親戚のいる奄美大島である。名瀬市の仲村夫妻の家には、ちょうど彼らが引っ越した時期くらいに、白い服を着た軍人の霊が目撃されるようになったという。

そう。ヘンダソンは今もこの世にいるのだが、仲村夫妻と一緒に、奄美に渡ったのである。

その後、彼らから音沙汰がないので、ヘンダソンがどうなったかは神のみぞ知るなのだが。

幸運を祈ることにしよう。とりあえず。

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