マブイグミ魂を体内に戻す行為(沖縄県糸満市) | コワイハナシ47

マブイグミ魂を体内に戻す行為(沖縄県糸満市)

VFダンスホール跡にまつわる話 その2

その後、トオルはすっかりおかしくなってしまった。西原町にあった実家に閉じこもってしまい、電話をしても家族のものが出て「トオルは調子が悪いので、しばらく学校はお休みします」というだけで、話をすることもできなかった。

そのうち、同級生の間で、トオルが糸満市にある某精神病院に入院しているとの情報が広まった。だがそれも噂に過ぎなかった。誰もそれを確認したものはいなかった。

それから半年経った頃、心配になった恵さんは一度トオルの実家を訪ねてみようと思い立った。とある日曜日にバスに乗って西原町にあったトオルの家までやってきた。

だが残念な事に、そこにトオルの姿はなかった。

友達だと話すと、母親は一瞬変な顔をしたが、すぐに家の中に入れてくれて、恵さんにこんな話をしてくれた。

あの夜以来、トオルは寝込んでしまい、夜になると叫び声を上げるので、精神科の病院に入院させたらしい。だが薬物では状態がまったく改善しないので、親戚のユタが呼ばれて、トオルを見てもらった。

「これはアメリカー(アメリカ兵)だね。いっぱいいるよ」とユタが言った。「説得しようにも、言葉が通じないさ」

そのユタは高齢のうちなんちゅであったので、トオルの背後に憑依しているアメリカ人の霊とは話が出来ないとぼやいた。そこで沖縄市に住んでいたアメリカ人のマックという霊能者の手を借りる事になった。マックは軍属で、嘉手納基地で働いていた。

マックは専業の霊能者ではなかったが、軍で働いている知り合いから、マックなら力になれるだろうということで、紹介された人物だった。マックは年の頃四十代くらい、ユダヤ系の背の高い男性だった。

マックは水晶の力を用いて、なんとかトオルの背後にいる米兵の幽霊を追い出すことに成功した。それから一週間はトオルの容態は見違えるように回復し、普通に話もできるようになったが、一週間もすると、再び夜うなされるようになり、家の中でも怪奇現象が起こるようになった。

なぜか、トオルが二人現われるようになったという。

夜中、トオルがトイレに起きたので、心配した母親が見に行くと、トイレの中でうずくまって寝ていた。トオルを起して部屋まで行くと、その途中、トオルそっくりの後姿の男性が二階へと階段を上っていくのを目撃した。

また朝起こしに行くと、ベッドサイドにうつむいてトオルが立っているのに、まったく同じ格好のもう一人のトオルが、ベッドの中ですやすやと寝息を立てていた。母親の見ている前で、うつむいていたトオルはゆっくりと姿を消した。

仕方なく精神病院に入院させて、様子を見ることにしたという。

そこで、別のユタに相談したところ、こんな事を言われた。

「あんたの息子さんは、マブイ(魂)をあの場所に落としてしまった。その時に一緒に行ったものにお願いして、もう一度夜、あの場所に行って、マブイを拾ってきてもらいなさい。そうしないと息子さんは永久にこのままだよ。死が口をあけて待ってるだけだよ」

そこで同級生に連絡を取ろうとしているときに、偶然恵さんが訪ねてきたものだから、すぐさま家の中に入れたという。

「え、つまり、どういうことですか?」恵さんは話を全部聞いてから、青くなった。「もう一度、私にあの場所に行けっていうことですか?」

「元はといえば、あなた方が息子を連れていったからでしょう。最後まで責任を取ってちょうだい」

「何をすればいいんですか?」

「あの場所にもう一度行って、三個の石の中にあの子のマブイを拾ってきて欲しいの」

沖縄の言い伝えでは、人間には七つのマブイがあって、それは時にエネルギーが落ちたり、事故などにあった場合、マブイそのものが体外へ落ちてしまう場合があるという。なので本人がその場所に出向いてマブイグミ(マブイを体内に戻す行為)をするか、あるいは本人が行けない場合、石の中にマブイを入れて、もって帰らなければならないとされている。

恵さんはトオルの母親からそんなことを言われて凄く悩んだのだが、リョウタにそのことを話すと、ぜひ行ってマブイを拾ってこようということになった。

そこで当時参加したほかのメンバー四人と一緒に、恵さんは夜中のVFダンスホール跡に向かった。途中でしとしとと小雨が降り出し、何か嫌な雰囲気が漂い始めていた。

VFに着くと、彼らはすぐさまトオルがおかしくなった部屋へと出向き、持ってきた三個の小石を床の上に置いた。そして、恵さんはユタから教えてもらった言葉をそのまま繰り返した。

「マブヤー、マブヤー、ウティキミソーリ(魂よ、魂よ、こちらに来て下さい)」

その瞬間、部屋の片隅でかすかな金属音が「チーン」と鳴った。

他の場所からも「チーン」という音が聞こえ、周囲から連続的にそんな音が聞こえ始めた。

恵さんは言われたとおりにそれを三度繰り返し、小石を再び拾ってから廃墟を後にした。廃墟からは絶え間ない「チーン、チーン」という金属音がこだましていた。

恵さんは次の日、トオルの母親にそれを渡した。母親はそれを見て涙を流して喜んだという。

トオルはそれから結局大学を辞めてしまったが、次の年からは元気に働きだし、今に至っている。だがVFダンスホール跡に行ってからの記憶は、まったく残っていない。

恵さんは現在結婚もして二児の母親になったが、あのときのことは生涯忘れないという。VFダンスホール跡が解体されたということについて、彼女はこう語った。

「建物は解体されたでしょうが、あそこにいたものたちはそんなことで解体されません。彼らは一体どこへ消えてしまったんでしょう? 私はそれが怖くて、仕方がありません」

まるで床の上にメスを落としたときのような、そんな金属音でした、と恵さんは語ってくれた。

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