砂場のオジイ(沖縄県) | コワイハナシ47

砂場のオジイ(沖縄県)

安里さんたちは県営団地の一階に十年近く住んでいる。稼ぎは少なく、夫のKさんはもう何年も前に内地に出稼ぎに行ったまま、行方不明になってしまった。妻の良子さんは二人の小学生を女手一つで育てながら、昼はスーパーで働き、夜はスナックで働くという疲弊する毎日を過ごしていた。良子さんには父であるノブアキオジイがいたのだが、そのノブアキオジイも何年か前に他界していた。

そのノブアキオジイというのがまた、問題を抱えたやっかいな人物だった。生前は浮気を繰り返し、そのせいで妻は鬱病になって早死にしてしまった。そして老後になり、良子さんのところに面倒を見てもらうようになっても、借金を作ってしまい、それをすべて良子さんが肩代わりするハメとなった。ノブアキオジイが亡くなったのは肝臓ガンだったが、それも酒の飲みすぎが祟ってのことで、死にかけて入院しながらも、夜になるとトイレで泡盛を飲んでいた。だからノブアキオジイが亡くなったとき、正直良子さんはホッとした。肩代わりしている借金がまだまだ残っていたけれど、これで平穏無事な生活が一部でも戻ってくるのだと、淡い希望を抱いていた。

だがそれは少し間違っていた。

ノブアキオジイは確かに死んでしまったのだが、どうやらその魂はこの世に留まり続けていたらしいのだ。

孫であるカズオくんには、いつの頃からか死んだノブアキオジイの姿が見えていた。

ある日のこと、カズオくんが団地の砂場で遊んでいると、近くのガジュマルの木から、半透明の写真みたいなノブアキオジイがびろーんと現われて、こう言った。

「辛いことはないかー?」

「ないよ」カズオくんは答えた。

「本当かー?」

「本当だよ」

するとノブアキオジイは安心したのか、ニコニコと笑いながら、ゆっくりとガジュマルの中に消えていく。そのせいでカズオくんは、死んだら人はガジュマルの中に入っていくのだと信じ込んでいた。

それからしばらくしたある日、カズオくんは良子さんにそのことを話した。

「ねえお母さん、オジイがさ、ガジュマルの木から出てきてさ、いつも顔をのぞきこんでニタニタしているんだよ。馬鹿みたいだよねー」

「オジイって、どこのオジイね?」

「オジイって、カズオのオジイに決まってるよ。ノブアキオジイしかいないさー」

「ちょっと待ちなさい。あんた、誰と話してるって?」

「ノブアキオジイだよ」

「死んだあのオジイね?」

「そうだよ。死んでも会いに来るよ」

「どこでね?」

「団地のガジュマルにいるよ」

それを聞いた良子さんは夜遅かったにも関わらず、金属バットを持って砂場に出て、激怒しながらガジュマルの木を殴打した。

「オジイよ。あんたフラーかよ。さっさとグソー(あの世)に行かんで、どうしてこんなところで道草食ってるわけ。こっちは仕事掛け持ちで必死になって働いているのに、あんたは生前と同じようにフラフラしながら根無し草みたいに散歩しているわけ。そんな時間があったら、私に良い人でも紹介して頂戴。早く成仏しなさい」

そんなことを言いながら、良子さんは日頃のフラストレーションを晴らすように、金属バットでガジュマルの木を叩いてボコボコにしたという。

次の日、カズオくんが砂場に行くと、ガジュマルからオジイの悲惨な声が聞こえてきた。「カズオ、痛いよぉー、痛いよぉー」声は何度もそう叫んだ。

怖くなったので母親にそのことを伝えると、良子さんはまた激怒して、今度は包丁を持ってガジュマルの木に近づくと、ど真ん中に思いっきり包丁を突き立てた。

「もういい加減辞めなさい。早くグソーに行く。それがあんたの仕事だろ!」

それからしばらく、怖くなったのかノブアキオジイの姿は、砂場では見られなくなった。

「どうしてオジイにあんなことをしたの?」ある日カズオくんが良子さんに聞いた。

「それはね、あのオジイは女癖も悪いし、生きている間は好きなことばっかりして、家族には借金しか残さないし、苦労させたお陰でオバアは早死にするし、いいことなんて何もなかったのよ。オジイが死んでからの借金を返したのは母さんなんだよ。だからいつまでも公団住宅から出られないわけさ。そのぐらい、息子だったらあんたも分かりなさい!」

子ども心にも、母親が実の父をうまく思っていないというのは理解できたカズオくんは、次に砂場でノブアキオジイを見つけても、無視しようと心に決めた。無視するのは簡単だ。喋らなければ良いのだ。

と、思われた。

だがノブアキオジイは、カズオくんの裏をかいて現われた。

ある日を境に、オジイは砂場ではなく、団地の部屋の中に現われはじめたのだ。

シェアする

フォローする