吊るし猫(沖縄県) | コワイハナシ47

吊るし猫(沖縄県)

沖縄では、猫はあまりに幼くして死ぬと、マジムンになるという。

そのため、早くして死んだ猫は、一刻も早く天へと昇らすため、袋に入れて木に吊るす習慣がある。戦前などは良くこの方法で死んだ猫を木に吊るした光景が見られたが、最近でも田舎の方の森なのでちょくちょく見られる。最近ではコンビニの白っぽい袋に死んだ猫を吊るすことがよくある。

この吊るした猫は、決して人為的に木から落としてはならない。そうすればその猫はマジムンと化し、取り返しのつかない事態になるのだという。

だがこれはすべて伝承にすぎない。沖縄の北部やんばるに住む大城たえこさんは、頭からそんな話を信じていなかった。

ある日の夕暮れ、たえこさんが十歳の娘であるみかちゃんと公園で散歩をしていると、ちょうど外れの森の中で木に何かが引っかかっているのが見えた。近づいてみると、しんだばかりの子猫が、コンビニの袋の中に入れられて揺れていた。

「お母さん、怖いよう」みかちゃんがたえこさんの足にしがみついてきた。

たえこさんはそれを見て、沖縄の昔からの伝承を思い出した。死んだ猫は木に吊るすという昔ながらの話を、たえこさんは大嫌いだった。野蛮で、汚く、死んだ猫に対する冒涜だとさえ思っていた。

「死んだ猫は、こうやって木に吊るしておくと天国に行くんだって」たえこさんは娘にそのように説明した。

「でもおろしてあげようよ」みかちゃんは泣きながら母親に嘆願して来た。

「でもね、触らない方がいいよ」

「猫ちゃんが可哀想だよ!」

そうね、確かに可哀想よね。たえこさんはそう思って、コンビニのビニールを引きちぎり、近くの桜の木の下に穴を掘って、そこに猫を埋めた。みかちゃんと二人で手を合わせて、「うーとーとぅー(方言で拝みをする時の言葉)」と言った。

二人とも、なんだか良いことをした気分になっていた。あの子猫ちゃん、絶対天国行くよね、とみかちゃんが言うので、そうよね、絶対行くよね、だってみかがうーとーとぅーしてあげたでしょ、とたえこさんも娘にそんな話をしていた。

その日の夕方のことである。たえこさんはキッチンにいて夕食を作り、みかちゃんは居間で夕方のテレビを見ていた。するといきなり、どこからともなく車が衝突するような「がっしゃーん!」という大音響がしたかと思うと、同時に家が激しく揺れた。

びっくりして二人は家の外に出てみたが、外には穏やかな本部町の風景が広がっているだけだった。たまたま前を通りかかった知り合いのオバアに聞いてみても、そんな音したかねえと首を傾げるばかりだった。

おかしなこともあるものだと再び家の中に戻ると、今度はコンクリートの家が下から持ち上げられるようなドンドンという鈍い音に何度も襲われた。近所で工事でもしているのかしらと思ったたえこさんは、自転車で近所を一周してみたが、どこにも工事などしている様子はなかった。

いぶかしみながらたえこさんが家に戻ると、夫の車が駐車場に入っているのが見えた。夫が仕事から帰って来たのだと思い、玄関にいくと、玄関の引き戸があいたままになっていて、そこに夫がばったりと倒れているのが見えた。

びっくりして夫を介抱すると、すぐに目を覚まして、妙な話をしてくれた。

「あのさ、家に帰って来たら、いきなり真っ黒な猫が走って来て、胸のあたりに飛び込んで消えてしまったんだ。それから意識がなくなってしまった」

一瞬、公園でのつり下げられた猫のことを思い出したが、まさかそんな関連があるなんて、考えたくなかった。なので、夫には昼間の件は話さなかった。

夜になり、三人家族は静かに就寝時間を迎えた。本部町の夜は深くて底のない静けさだった。深夜二時を回るころ、いきなりみかちゃんがうめきだしたかと思うと、そのまま絶叫した。

まるでさかりのついた猫のように、十歳のみかちゃんが絶叫した。

両親ともどうする手だてもなく、そのまま救急車が呼ばれて、みかちゃんは緊急入院した。医者の判断では、脳性マヒの疑いがあるという。あまりのことに二人とも打ち拉がれたが、たえこさんの頭の中には、公園で埋葬したつり下げ猫のことがたえず意識の片隅にあった。

…あれを下ろしてしまったのがいけなかったのかしら。いえいえ、私たちは助けようとして下ろしてあげたのに、どうしてこんなひどい仕打ちを受けないといけないのかしら。だから娘がこんな状況になったのは、あれとは関係のないことだわ。

ところが三日目になっても、四日目になっても、医者は判断を下せず、検査ばかりの日々が続いた。そこでとうとう、たえこさんは夫に「実はこの子がおかしくなる前に、公園でつり下げられた猫を見つけてね」という話をした。

話を聞いた夫は「どうして早くいわないんだよ!」と激しくたえこさんを責め立てたという。その日まで知らなかったのだが、夫の祖母は宜野座ぎのざ村そんでは有名なユタだった。

それから夫が連絡すると、たえこさんが一度も会ったことがないユタのオバアがやってきた。オバアはみかちゃんの病室に入るなり、「マヤー(猫)だよ、マヤーだよ。嫌な猫だね」とぶつぶついいながら病室に塩をまき、ベッド横に神棚を作ってウガン(お祈り)をした。すると翌朝にはみるみる熱も引き、意識も戻った。まるで嘘のようにみかちゃんは回復した。

それからすぐにたえこさんとユタのオバアは、猫が埋められている公園の桜の木の下に行って、猫の魂を上へ上げる儀式を行った。

「すいません、私、まったくこういうのは見えないし、信じていなかったんです」たえこさんは正直にオバアにいった。

「それはどうでもいいさ」とオバアが言った。「大切なのはよ、目に見えない世界とこちら側の世界とでは、価値観が違うってことさ。あんたが人のためだと思ってやったことも、向こう側の世界では無になるわけさ。それさえわかっていれば、大丈夫さ」

それからみかちゃんは回復したが、熱にうなされている時のことは何も覚えていないという。たえこさんは今でも猫が木につり下げられているのを見ると、寒気がして、気分が悪くなる。

シェアする

フォローする