団地のオジイ(沖縄県) | コワイハナシ47

団地のオジイ(沖縄県)

ある日、カズオくんが団地の中でプラスチックのボールで遊んでいると、ころころと転がったボールの先に、半透明で写真みたいな足が見えた。ノブアキオジイの足だった。

ノブアキオジイは孫の顔を見つけると、ニターッと笑いながら、近づいてきた。

カズオくんは無視した。プイと顔を背けると、また何事もなかったかのようにボール投げに熱中した。ボールを壁に投げている間、ノブアキオジイはニタニタしながら壁際に立って、孫の姿をずっと眺めていた。

やがて五時を回り、スーパーでレジを打っている良子さんが帰って来た。

「お帰り」と声をかけてからふと見ると、そこにはもうオジイの姿はなかった。言わないつもりだったが、カズオくんの視線の先が気になった良子さんが問いつめてしまったので、カズオくんはオジイが部屋の中に現れたことをばらしてしまった。

「ボケボケボケボケボケ!」と良子さんはノブアキオジイのいた場所に大声で悪態をついた。それからしばらく、ノブアキオジイは現れてこなかった.

ところで、カズオくんには、同じ棟の三階に住む、レイナちゃんという同級生の友達がいた。

レイナちゃんにほのかな恋心を抱いていたカズオくんは、ちょくちょく彼女の部屋に遊びに行っては、お菓子を食べたりゲームをしたりしていた。レイナちゃんの母親らしき女性はいつもキッチンに立って、こちらを無言で見つめていることが多かったが、時折挨拶をすると、ペコリと頭を下げてくれた。そんな折、二人で一番秘密にしていることを話そうという事になり、カズオくんは今まで母親以外に誰にも口外しなかったあのことについて話し出した。

「あのさ、わー(僕)の部屋にはオジイの幽霊が住んでいるよ」

「オジイって。この前死んだオジイのこと?」

「そうそう。死んでも部屋にいるんだよ。わーが何かすると、いつもニタニタして見てるわけ」

「そんなのいいばー。うちにいるのは、知らない女の人ってば。レイナがトイレに行こうとすると、いつも脅かすわけさ」

「女の人って、どこにいる?」

「いつもキッチンにいて、こっちを見てる」

「えっ!」ビックリしてカズオくんはキッチンに立っている髪の長い陰気な女性の姿を見つめた。彼女は今もそこにいて、こちらをぼんやりとした姿で眺めている。

「お母さんじゃないば?」

「知らない女の人さー」

すると、二人の前にいたくだんの女性は、ゆっくりと周囲に溶け込むようにキッチンの前から消失してしまった。カズオくんは一人で悲鳴を上げ、逃げるようにして部屋を出た。後ろでレイナちゃんが大きな声でこう言うのが聞こえた。

「だからよ!」

次の日、カズオくんはレイナちゃんの家に巣食う女性の幽霊について、良子さんに相談した。

「お母さんは、ぼくの話、信じる?」

「もちろん。そういうものはたまにいるのよ。でも関わりを持っちゃいけないわよ」

「でもレイナが困ってるって。助けて上げられないの?」

母親は少し考えてから、「いい方法がある」と言って二人で居間の一角を眺めた。

「ここにノブアキオジイがいるわけ? 見えるの?」良子さんはカズオくんにたずねた。彼女はノブアキオジイの姿を見ることも、感じることさえできなかった。

「いる」カズオくんが言った。カズオくんの視えるノブアキオジイは、なんだか小さくなって小刻みに震えているようにも思えた。

「じゃ、父さん」そういって良子さんは改まって父親に話しかけた。「あんたの可愛い孫のお友達が三階に住んでいるんだけど、女の幽霊が部屋にいて怖いんだって。だからさ、あんたがカズオと一緒に三階に行ってあげて、女の幽霊を追い出してきてちょうだい。せめて死んでからぐらいは家族の役に立って。分かった?」

ノブアキオジイは表情一つ変えずに、眉をひそめながら立ち尽くしていた。

「分かったかって聞いているんだけど!」たまらず良子さんは横の壁を思いっきり叩きながら怒鳴った。

するとノブアキオジイはびっくりした表情でカズオくんに向かってひょこひょこと頷いた。

「分かったって言ってるよ」カズオくんは母親にそのことを伝えた。

そして次の日。良子さんはノブアキオジイを呼び出してもらい、まるで脅迫するような感じで話しかけた。

「父さん! いるんなら話を聞くんだよ! 今からあんたは、あんたのかわいい孫と一緒に三階まで上がって、レイナちゃんの部屋にいる女性に、こういうんだよ。『お前は邪魔だ!ここからとっとと出て行け!』父さんはショーン・コネリーのジェームズ・ボンドが好きだったでしょ。あんな感じで、バババって追い出しちゃいなさい」

「わかったって言ってるよ」

「そうなの。じゃさっさと行ってきなさい!」

こうしてカズオくんはノブアキオジイと共に、レイナちゃんの三階の部屋まで一緒に行くことになった。

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