狸三題(新潟県) | コワイハナシ47

狸三題(新潟県)

新潟県佐渡島には、「団三郎狸」と呼ばれる狸の伝説が残っている。淡路島の芝右衛門狸、屋島の禿げ狸と並んで、「日本三狸」に数えられる、いわば大親分である。

この団三郎狸、いまでも人をよく化かす。

「平成も四半世紀を迎えた時代に狸など」と笑われるかもしれないが、島の人々は怪事が起こると口を揃えて「狸の仕業だ」という。こちらがなおも否定すると、今度は具体的な体験談を持ちだし、その信憑性を主張する。

以下は、そんな佐渡島の方々よりうかがった、不思議な話である。

島内で農業を営む御崎さんの話である。

ある早朝、彼が自身の田圃へ向かうと、誰かが青々とした稲のなかに屈んで野良仕事に精をだしている。草刈りをしているのかと思ったものの、雑草が伸びる時期にはまだ早く、誰かに手伝いを頼んだ憶えもない。

米泥棒にしては、季節があまりに違いすぎるしなあ。

緊張しながら近づいた途端、人影が身体を起こしてこちらを向いた。

「うおッ」

顔も衣服も麦わら帽も、すべて自分とおなじ男がにこにこと笑っていた。

予想外の出来事に驚いていると、男は再び田圃のなかに屈み、そのまま消えてしまった。

気がつくと、朝飯に持参したおにぎりがリュックのなかから消えていたという。

工藤さんが、島の高校にかよっていたときのこと。

自転車で学校に向かっていると、目の前をひとりの小学生が歩いている。

しかし、小学校はまるで別方向である。

具合が悪くなって早退したのかな。小学生の脇を走り抜けてから、なんとなく気になった彼女は、自転車の速度を緩めて後ろを振りかえった。

小学生の姿はなかった。遠くにかけていく獣の姿が見えた。

あ、化かされたッ。慌てて通学鞄をたしかめると、放課後の楽しみにこっそり忍ばせておいたチョコレートが、外箱だけを残して空になっていたそうだ。

ゴミになるだけだから箱ごと持ってってほしかった、とは彼女の漏らした言葉である。

ある年の冬の日、大友さんは佐渡金山周辺をめぐる路線バスのハンドルを握っていた。

戸中という集落に差しかかったころであったという。

彼方の停留所にバスを待つ人影を発見し、大友さんはスピードを緩めた。

待っていたのは、白髪を丁寧に結った和装の老女である。そのときは「このあたりで見かけない顔だな」と、ぼんやり思った程度だった。

首を傾げたのは、次の停留所。

バス停の看板の前に、誰かが立っている。

和装で白髪を結った、高齢の女性。先ほど乗せたばかりの女性に、姿形が酷似している。

お、お茶会でもあるのだろう。

言い聞かせてはみたものの、どうにも振りかえる気になれない。やや動揺しながらハンドルを握るうち、バスは次の停留所へと到着した。

「えっ」

着物で白髪の女が、また立っている。

服の下を冷たい汗が伝う。大友さんは、再々度乗りこんできた老女から目を逸そらすように前方を凝視した。窓の外はいつのまにかすっかりと暗くなっており、ヘッドライトの光のほかは、暗闇に潮しお騒さいが響いているばかりである。

これはなんだ。なんだなんだなんだ。

確かめるのが怖い。けれども、もう確かめずにはいられない。

眼球だけを動かして、バックミラーで乗客席へ視線を移す。

「うわッ」

バスの乗客が全員あの老女になっていた。

ひとり残らず、大友さんを見つめながら笑っていた。

驚きのあまり運転席から転げ落ちる。はずみで、視線が再び車内へと向いた。

「……あれ」

老女の姿はなかった。座っているのはヘッドホンをしたまま眠りこけている高校生と、怪訝な表情でこちらの様子をうかがっている主婦のふたりだけ。

そのときはじめて、化かされたのだと気がついた。

しばらくは、和服の女性を見ると身構える癖がついてしまったという。

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