守ってくれたお祖母ちゃんのおまもり(富山県) | コワイハナシ47

守ってくれたお祖母ちゃんのおまもり(富山県)

「友だちも彼氏も、みんな笑うんですけど……そんなに変ですかねぇ、コレ」

葵さんは首を傾げながら携帯電話を私に向かって突きだした。いまとなっては希少な、ガラケーと呼ばれる種類の携帯電話である。

「変ではないと思いますよ。電池の持ちが良いのでガラケーを愛用している方も……」

「あ、違います違います。そっちじゃないです」

私の返答を笑って遮ると、彼女はじゃらじゃらと携帯電話のストラップを揺らした。

「まだ子供のころの出来事なんですけどね」

当時、彼女は富山県のある町に両親と祖母の四人で暮らしていた。共働きの両親より祖母になついている、いわゆる「お祖母ちゃん子」であったそうだ。

「保育園のときは、お祖母ちゃんが着物の端切れで作ってくれたお手玉とか、タオルを器用に縫いあわせた動物が大好きでした」

しかし、小学校にあがってしばらく経つと、そんな嗜好にも若干の変化があらわれる。祖母の作った玩具が疎ましくなってきたのである。

同級生は、洒落た髪留めやキャラクターのプリントされた文房具など可愛らしい品を所有している。それに比べて自分が持っているのは地味でセンスの古い、とてもクラスで見せられないようなものばかりに思えてしまったのだという。

やがて彼女は、祖母の手づくりの品を「要らない」と突きかえすようになった。

「祖母ちゃん……寂しそうでしたね。いまは申し訳ない気持ちでいっぱいですが、当時は恥ずかしいという感情のほうが強くて。あのときの顔を思いだすと、胸が苦しくなります」

そんな、ある冬のこと。

いつものように登校しようと玄関先で靴を履いていた葵さんを、祖母が呼び止めた。

「きゃあ(これ)、持ってきっしゃい」

見れば、祖母はカラフルな毛糸で編まれた、ちいさな球体を握っている。

「昔からのお守りっちゃ」

祖母はそう言いながら、葵さんの目の前で毛糸の小玉を嬉しそうに揺らした。

可愛らしいお守りだな、と内心では思った。祖母が自分のために普段はあまり使わない配色を選んだのも解っていた。けれども照れくささに負けて、彼女は素直に頷うなずかなかった。

「そういうの要らないってば。汚くて厭なの」

走りだそうとした腕を、祖母が摑んだ。

「お願いだから、持っていってまぁ」

懇願するその瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。

解った──とは、どうしても口にできなかった。葵さんは無言でお守りを受け取ると、ランドセルの脇に結びつけて、今度こそ走りだした。

通学路を歩く足どりは、重かった。

同級生が軽やかに挨拶をして彼女の脇を走り抜ける。追いかける気にはなれなかった。脳裏に、祖母の悲しそうな表情が絶えず浮かんでいた。

お祖母ちゃんに悪いことしちゃったな。

帰ったら、ごめんねって謝ろうかな。

そんなことをぼんやり考えながら歩いていた、その最中だった。

突然、誰かに背後から勢いよく引っ張られて、葵さんはその場に尻餅をついた。痛みと恥ずかしさに、思わず声を荒げて振りかえる。

「ちょっと誰よッ。イタズラしないで……」

視線の先には誰もいなかった。

えっ、と思った次の瞬間、背後で「金属工場にワープしたような」轟音が響いた。

再び前方を向くと、水色の車体が目の前を塞ふさいでいた。

「わき見運転の軽トラックでした。カーブで急ハンドルを切ったすえに、積み荷の重さで転倒したのだと、あとから知りました」

トラックが横倒しになっていたのは、彼女の数メートル先。尻餅をついていなければ、ちょうど歩いていたあたりだった。

「そのときは、〝運が良かったな〟と、胸を撫でおろして終わったんですが……」

夕方、学校から帰宅したところ、祖母が玄関で待っていた。

「効いたみたいだの」

そう言うと、祖母は笑いながら葵さんの頭を撫で、玄関マットの上におろしたばかりのランドセルのお守りを指でつまんだ。

「あ」

放りこんだままにしていた毛糸の玉が、バラバラにほつれていた。毛糸の隙間からは、薄黄色の丸いかたまりが覗のぞいている。

「婆ちゃん、ずっとご先祖さまに〝このお守りで葵ちゃんを守ってくだはれ〟とお祈りしとったん」

おまもり。おいのり。私を、まもってくれたの。

漏らした言葉に、祖母が頷く。

「なあ、祖母ちゃん嫌いになっても良いから、元気でいられまぁ」

寂しそうな言葉を聞いた途端、涙で視界が一気にぼやける。

葵さんは「ごめんなさい」と繰りかえしながら、しばらく泣き続けた。

「それから、ずっと着けているんです。コレで……十七代目になるんだっけかな」

微笑みながら、葵さんが再び携帯電話をかざす。

ピンクの毛糸で編まれたストラップが、ふるふると揺れていた。

「祖母ちゃんの手づくりなんですよ、コレ。友だちも彼氏も、みんな笑うんですけど……そんなに変ですかね」

独りごとのように呟く彼女へ、私は「可愛らしくて、とても素敵ですよ」と答えた。

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