アルバムの奇跡【大浦天主堂】(長崎県) | コワイハナシ47

アルバムの奇跡【大浦天主堂】(長崎県)

戸部さんはその日、自宅の改築のために自室の荷物を整理していた。

と、押し入れに詰めこんでいた雑誌やコミックを仕分けしていた最中、隙間から薄い冊子が、はらりと床に落ちた。ピンク色の表紙の真ん中では熊のキャラクターが微笑んでおり、かつて近所にあったカメラ店の名前がプリントされている。

ああ、写真屋さんで現像のときに貰うアルバムだ。

懐かしさに拾いあげた瞬間、「なんだこれ」と声が漏れた。

裏表紙に、黒ずんだ帯が縦横それぞれ一本ずつ走っている。顔を近づけて観察してみると、黒い筋は焼け焦げた痕のようで、その部分だけ紙がよじれている。

こんなものを炙った記憶などない。そもそも雑誌のあいだに挟まっていたのならば、この冊子だけが焦げているというのも理屈に合わない。

押し入れへ突っこむ前に、誰かが悪戯したのかな。そもそも、なんの写真だっけ。

訝しみながら、ページを開く。

なかには、写真が一枚きりだけ残っていた。

修学旅行で訪れた、長崎でのスナップショット。

ピースサインをレンズに向けている幼い戸部さんの背景には、教会とおぼしき純白の建造物が写っている。と、屋根の上に延びる十字架を見た瞬間、戸部さんはなんのためにこの写真を撮ったのかを思いだした。

心霊写真。この教会を撮影すると妙なものが写るという同級生の与太話を信じ、持参した使い捨てカメラでたわむれにシャッターを切ってもらったのだ。

結局、現像してみたところが怪しいものはなにも写らず、そのまま放置したところまではぼんやり憶えていた。

冊子をめくり、改めて裏表紙を確かめる。

縦と横に交差した黒い痕を見て、はっとした。

もしかして、十字架じゃないのか。

怖くはなかった。申し訳ないという気持ちでいたたまれなくなっていた。

不遜な気持ちで撮ったあげく、そのまま忘れてしまって。

戸部さんはアルバムを丁寧に抽き出しへしまうと、瞑目した。

「他人から見れば、偶然だよと笑うような出来事かもしれませんが……十字架だと気がついた瞬間の衝撃はいまも忘れられませんね」

奇跡に遭遇する瞬間って、ああいう心境なんだと思います。

今年、改めて長崎を訪れ、あの教会を訪問するつもりだそうだ。

【大浦天主堂】

一八六五年に建てられた、長崎市にあるカトリックの教会堂。正式名を《日本二十六聖人殉教者天主堂》という、現存するものでは日本最古の洋風建築物である。豊臣秀吉の命令で磔けにされた二十六聖人に捧げられており、その悲しい歴史のためか、「ここを撮影すると奇妙なものが写りこむ」という噂がある。一九五三年には、国宝に再指定されている。

教会堂の近くには、長崎に住んでいたイギリス人商人グラバーの邸宅を中心とした庭園、「グラバー園」がある。ここで一八九七年に撮影された結婚式の写真には、窓辺に白い影が浮かんでいる。これは、日本最古の心霊写真であるといわれているそうだ。

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