新居の顚末(香川県) | コワイハナシ47

新居の顚末(香川県)

話者の男性の希望により、詳細な地名や時代は伏せる。

香川県の某所で起こった出来事とだけ、憶えるに留とどめていただきたい。

彼の住む地区には、草だらけの空き地があった。

空き地は細長い小路を分断するように広がっているものの、その奇妙な立地を除けば、商店街からもほど近く、交通の便も悪くない。にもかかわらず、そこは長らく放置されていたのだという。空き地である理由も、そもそも誰が所有しているのかも、付近の住民は誰ひとり知らなかった。いずれにせよ、なかなかの好条件でありながら、そこに家が建つことは久しくなかったのである。

ところがあるとき、この土地を東京の大手メーカーが買い取り、あっという間に洒落れた住宅を建ててしまった。住民もはじめこそ驚いたものの、よくよく考えてみればべつだん忌まわしい因縁話があるわけでも、血なまぐさい伝説が残っているわけでもない。

おおかた相続のいざこざでもあって、なかなか買い手がつかなかっただけに違いない。

そんな住民の考えを後押しするように、ある日、彼らのもとへ「明日からあちらの家に暮らす予定の者です」と、見知らぬ男女が菓子折を手に訪れた。

聞けば、四十代半ばとおぼしい主人は医師であり、同地区の総合病院へ配属されたのを機に、ここを終の住処にしようと奮発して一戸建てを購入したのだという。

「子供ができたら、実家があったほうがなにかと良いだろう、なんて思いましてね」

そう言うと、いかにも遣り手といった雰囲気の主人は、見るからにひとまわりは年下の妻と目配せをしながら微笑んでいる。

あまりの幸せそうな様子に、一同は拍子抜けしてしまった。

やはり、なにもないのだ。思いこみだったのだ。

ひそかに怯えていた自分たちを恥じながら、住民たちは仲睦まじげに新居へ戻っていく医師夫婦を見送った。

そして、その翌日。

くだんの夫婦はそろって新居で首を吊ったのである。

家は売りに出されたが買い手がつかず、間もなく解体された。

いまは、再び更地になったまま、いちめんに草が茂っている。

【縄筋】

香川県の民間信仰。魔物の通り道であるとされ、ここに建物を建てた者は災いに見舞われるという。今野圓輔『日本怪談集 幽霊篇』では「ナワスジの怪」と題し、平尾基孝なる人物が一九五九年に毎日新聞へ寄稿した、戦前のナワスジにまつわる話が掲載されている。

岡山県では同様の忌み地をナメラスジや、ナマムメスジなどと呼ぶ。また、魔物が棲むようになった田園はツキノワと呼ばれ、こちらも縄筋同様に、人が立ち入ってはならない場所とされている。

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