昭和のUFO(神奈川県) | コワイハナシ47

昭和のUFO(神奈川県)

未確認飛行物体、いわゆるUFOの目撃談をときおり拝聴する。これまでは「怪談とカテゴリが異なる」という個人的な線引きによりその手の話は掲載を控えてきたのだが、先日、なんともユニークなUFO譚をうかがう機会に恵まれてしまった。それがあまりに興味深かったため、前述のポリシーをあっさりと捨てて、読者諸兄にご紹介したいと思う。

現在は東北に暮らす男性、石井さんの話である。およそ四十年前、昭和五十年ころの出来事だそうだ。

当時、石井さんは横浜市の団地に夫婦で暮らしていた。東横線日吉駅からほど近い場所、彼いわく「現在よりものどかな、夕焼けの似合う町」であったという。

そんな、ある夜。二人で晩酌の席を囲んでいると、ふいに妻が「なに、あれ」と言い、箸の先でベランダの向こうを指し示した。

見れば、楕円形をした白い光が夜空にぼんやりと浮かんでいる。

「ああ、たぶんガラスに蛍光灯の輪っかが反射しているんだよ」

石井さんが笑いながらそう告げたと同時に、白い光が強くなった。

「えっ」

驚いてベランダへ近づき、窓を開ける。

光は確かに空へ浮かんでいた。方角は丹沢方面であったという。まるで動く気配もなく一点に静止している様子を見るかぎり、飛行機やヘリコプターの類ではないように思えた。闇のどこかで、教会の鐘を倍速にしたような音が鳴っている。

サイレンともチャイムとも異なる、奇妙な音だった。

これは、いったいなんだ。

呆然としていた矢先、妻が突然「だめよっ」と叫んで石井さんを室内へ引き入れるなり、カーテンを閉めた。

「あの光……見たら駄目な気がするの」

怯えた態度の妻にやむなく従ったものの、石井さんは光の正体が気になって仕方がなかった。やがて数分が経って冷静さを取り戻すにつれ、その思いはますます強くなっていったのだという。

「……もう消えただろうからさ。ちょっと確かめてみよう。ね、ね」

やんわり妻を説得し、カーテンをそろりそろりと開ける。

「あ」

光は、まだあった。位置も光量も、まるで変わっていない。音も続いている。

「やっぱり……空飛ぶ円盤ってヤツかな」

石井さんがなにげなく呟いた途端、光が白から赤へ急激に変わりはじめた。その色はあまりに鮮やかで、いまにも爆発しそうですらある。

と、恐ろしさのあまり手を握りあううち、光は血のような色を強く瞬かせてから消えてしまった。途端、眼下の町から車の排気音や犬の鳴き声がいっせいに戻ってくる。ぽかんと口を開けたまま、夫婦そろって真っ暗な夜空をすみずみまで観察したが、光の正体はどこにも見あたらなかった。

「……なんだったのかね」

「ね」

石井さん夫婦は呆然としながらも、「明日の朝刊が楽しみだね」と言いあった。あれほど強い光であれば、正体がなんであれ詳細が載るはずだと考えたのである。

だが、翌日も翌々日もその次の日も、光に関する記事はどこにも掲載されなかった。近所には同僚や妻の知りあいが住んでいたが、光を見た者は誰もいなかったという。

「同僚には〝その時間は子供と散歩してたけど、光なんて見なかったぞ。お前、ちょっと酒が過ぎるんじゃないの〟なんて訝しがられちゃうし。参りましたよ」

それほど飲んでいないつもりだったが、もしかしたら自分も妻も酔っぱらったあげくなにかを見間違えたのかもしれない。そうだ、あれは錯覚だったんだ。

日が経つに連れて強くなる確信。それを引っくり返したのは、数日後の昼、職場にかかってきた妻からの電話であった。

「テレビ、テレビテレビテレビ」

受話器を耳にあてるなり、妻は早口で何度もおなじ台詞を連呼した。

「なんだいったい、こっちはまだ仕事中で……」

「いいから、まずはテレビ見て。早く」

妻に促されるままオフィスのテレビをつけると、放送されていたのはワイドショー番組だった。画面では、のちに東京都知事となるAというタレントがなにやら熱弁を振るっている。その言葉に耳を傾けた瞬間、石井さんの口から「ええッ」と声が漏れた。

「……確かに聞いたんですよ。数日前、愛車で丹沢湖のほとりを走っていたら、空が突然明るくなって、ゴォォォンと変な音が響きはじめたんです」

「Aさん、それは空飛ぶ円盤ということなんですかねえ」

やや嘲笑めいた司会者の言葉に、Aが憮然とした表情で説明を続けた。

「解りませんけどね、一瞬の出来事でしたから。でもね、アタシは絶対に聞いたんです。あれは幻や見間違いなんかじゃないですよ」

これだ。自分が見たのは、彼が目撃したものと同じ光だ。

画面を指しつつ頷いていると、その様子を見た上司が「どうした、なにか事件かい」と近づいてきた。石井さんは興奮にまかせ、数日前の奇妙な出来事をつまびらかに話して聞かせたのだという。

「言い終えた瞬間、〝あ、マズかったかな〟と後悔しました。上司は真面目な人でしたから〝そんな非科学的なことなぞあるわけがない〟と怒られるんじゃないかと思って」

ところがそんな予想に反し、上司は腕組みをしたまま何度も頷いている。わけが解らぬまま「あの」と呼びかけたと同時に、上司が口を開いた。

「ウチの実家、丹沢の大秦野なんだがね。あのへんは昔から〝人魂が飛んだ〟なんて話がしょっちゅうあったよ。そうか、いまはUFOとして騒がれるのか。面白いなあ」

呆気にとられている石井さんを置き去りに、上司は「なるほどなあ」と笑いながら、自分の机に戻っていったという。

以降、横浜を離れるまで石井さんは思い出すたびに丹沢方面の空を観察してみた。しかし、残念ながらあの光は二度と目撃できなかったそうだ。

「……不思議なもんでね」

ひととおり話を終えた石井さんが、静かに呟く。

「当時は怖いとしか思えなかった謎の光が、いまはやけに懐かしいんですよ。住んでいた日吉の景色や、あのころの夕焼け……そんなものと一緒に思いだしちゃうんですよ」

懐かしくて怖い体験というのも、悪くないですね。

視線を空に向けながら、石井さんは微笑んだ。

【神奈川のUFO】

神奈川県丹沢周辺では、昔からUFOの目撃例が数多く報告されている。一九八二年「タモリのオールナイトニッポン」に出演したミュージシャンの細野晴臣氏が、丹沢の大山にあらわれるUFOを観測しに行ったことを報告、タモリ氏もかつてUFOを探しに丹沢へ行ったと発言している。また、二〇〇五年十月二十日付の東京中日スポーツには、歌手の小金沢昇司氏が神奈川県のカントリークラブで不気味な色に変化した空を撮影したところ、写真に奇妙な飛行物体や球状の光が写っていた、との記事が掲載されている。

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