グスク(城)跡(沖縄県) | コワイハナシ47

グスク(城)跡(沖縄県)

大嶺さんが学生時代、バイクで沖縄をツーリングしていた頃、やんばると呼ばれる北部の山の中で国道からわざとわき道にそれて、農道のような道をひたすら走っていったことがあった。もしかしたら米軍基地に突き当たるかもしれないと思いながら、フェンスが現われたら引き返せばいいやというような軽い気持ちで走っていたという。

案の定、五分も走れば鉄条網のある米軍基地のフェンスが現われて、大嶺さんは仕方なく引き返した。辺りはうっそうとした木々が生い茂り、昼間なのに薄暗く、舗装されていない道には小枝や枯葉などがうずたかく積もっていた。と、今来た道をそのまま引き返したつもりだったが、五分走っても舗装された国道にはたどり着かない。どこで道を間違えたのか、いくら走ってもやんばるの森の獣道がひたすら続いていた。

しばらく迷いながら走ると、いきなり見たことのない風景に変わった。古い石垣が現われたのである。古いグスク(城)跡のようだった。だが先ほど走ったときにはこのようなものはまったく見当たらなかった。石垣はところどころ崩れており、巨大なガジュマルの根っこに侵食されているところもあった。

だが一番驚いたのは、石垣に囲まれるようにして聳え立っていた一本のガジュマルであった。樹齢何百年はあろうかと思われるような、幹の太い、怖れさえ感じさせる巨木であった。

その巨木の下に、なぜか馬が三頭、縄でつながれて草を食べている。

え、どうして馬がこんなところに?

するとガジュマルのちょうど横に、大きな石造りのウガンジュが現われた。思わずバイクを停めた大嶺さんは、そこに白装束を着た何人かの女性がいるのを見つけた。

おそらくノロ(神女)のようだった。五人くらいの歳をとった女性がいたのだが、三人は白装束、二人は昔っぽい地味な色の着物だった。みなゴザを広げて、ウガンをしているようだった。大嶺さんがエンジンを切ってバイクを降りると、一人の普段着を着た女性が立ち上がって近づいてきた。

「すいません。道に迷っちゃって。ここ、どこですかね」大嶺さんはそう聞いた。

するとやってきたおばさんはなにやら不敵な笑みを浮かべながら、こう言った。

「浮かばれない人が集まるところですよ」

それを聞いて、大嶺さんはなぜだか背筋がぞっとして、言葉を継ぐ事ができなかった。

「あんた、早く行かんと、つかまるよ」

次の瞬間、墓の前を見ると、残りの女性四人が全部大嶺さんの方を向いて、一様に不敵な笑みを浮かべていた。大嶺さんは恐ろしくなり、すぐさまバイクに乗り込んで走り出した。

なんかよくわからん儀式やってる!

大嶺さんは心の中で悲鳴を上げながら、獣道を再び走り出した。

ところが、道をまっすぐ走ったにも関わらず、しばらく走ると再び崩れた石垣が現われた。そこはさきほどのグスク跡だったが、すでにノロたちの一団は消えて、誰もいなかった。おかしいな、そういえば完全な森の中なのに、乗ってきた車や、そのようなものの痕跡は一つも残されていない。大嶺さんは心の中で妙な不安を感じながらも、再びバイクを走り出させた。五分くらい森の中を走り続けると、今度は無事に舗装された国道へと出ることが出来たという。

大嶺さんは一番近くにあった集落の共同売店に入って、落ち着くためにコーヒーを買い求めた。さきほどバイクでこんなことを見たんですけど、分かりますか、と共同売店のおばさんに尋ねてみた。するとおばさんは不審な表情で、こう言った。

「この辺りに馬なんていませんよ。それに私の知る限り、そこに石垣とかウガンジュはありませんよ。大昔はあったはずですがね。今はアメリカ軍の敷地の中にあって一般の人は立ち入りできませんよ」

「でも、石垣と見たことない大きさのガジュマルもあったんです」

「ニーニー、あんた行ったのはね、黄泉の国だよ」おばさんが言った。「浮かばれない人のために祈っているノロがいるって聞いたことありますよ。あんた、どこの出身ね」

「那覇の久米です」

「すぐ帰りなさい。仏壇にウートートゥーしなさい。連れて行かれるよ」

そう言われて、ゾッとしながら大嶺さんは大急ぎで那覇の実家まで帰ったという。

何ヶ月かあとに、友人たちともう一度その場所に戻ってみたが、樹齢何百年のガジュマルも、聳え立つ石垣も、見つけることは出来なかった。

シェアする

フォローする