それはタイヤじゃない(沖縄県大宜味村) | コワイハナシ47

それはタイヤじゃない(沖縄県大宜味村)

佐敷さんが以前、冬の海に漁に出ていたときの話。

大宜味近くの海は荒れて、空はどんよりと低く垂れ込め、ときおり冷たい小雨が降り注いでいた。冬の海は冷たく重く、その日は朝から胸騒ぎのようなものがしていた。

曇り日の午後、佐敷さんが投げた網を引き上げていると、沖合いから何か黒っぽいものがこちらに近づいてくるのが見えた。

最初は鳥か何かだろうかと思ったが、目を凝らしてみるとそうではない。真っ黒くて、丸い。ゴーッという音がこだましている。例えていうと、車のタイヤが水上を移動している感じだった。

まるでタイヤのようなそれは、まるで意思があるかのごとく、凄まじい速度で佐敷さんの漁船に一直線に向かってきた。

バン、という鈍い音がしたが、タイヤはそのまま黒い航跡を描きながら、北の海へと走り去っていってしまった。

あれは何だったのだろう。佐敷さんは自問自答したが、答えは出なかった。鳥か、新種の魚か、あるいはラジコンか何かの一種か。だがどれも違う気がした。

その夜、漁師仲間と酒を飲みながら「こんなことがあったんだ」とタイヤの話をした。何人かの漁師仲間は佐敷さんの話をあざ笑った。だが仲間の一人からは「それはタイヤじゃない」と否定されてしまった。

「でもタイヤのようだった。タイヤにまるで、黒い毛の生えたような」

「それは女の生首だよ」

「なんだって?」

「俺も昔、見た。あそこはいろいろ出るんだよ」

その仲間はそんなことをいったきり、黙ってしまった。

「くびぐるま」

仲間はそれを、そんな風に呼んでいた。

この海域ではその他にも、チャーシー(おじさん)という名前のマジムンが出ると昔から言われている場所だった。チャーシーは、包丁など金属製の刃物をジャラジャラと鳴らすと魔除けになるといわれている。

なので佐敷さんはそれ以来、安い包丁を何本も買い、それを紐で結んで船の中に置いてある。何か不穏な雰囲気がすると、いつも海の上でそれを鳴らすそうなのだが、あれ以来くびぐるまには遭遇していないという。

「おそらく包丁の魔除けがきいているのかもしれませんね」

佐敷さんは現在の状況を分析して、そのように結論づけている。

おそらくその海域は、魔除けが現代でも通用する、唯一無二の場所かもしれない。

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