洗濯籠の中から出てくる手(沖縄県) | コワイハナシ47

洗濯籠の中から出てくる手(沖縄県)

静江さんが夜中にパソコンを見ていると、何かバスルームの方で音がした。

バタン、という、洗濯機の蓋がいきなり閉まったような音だった。

バタン、バタン、ドタ。

そんな音が、いきなり聞こえてきた。

静江さんは一人暮らしの大学生で、ワンルームのマンションにはいまだに洗濯機がなかった。バスルーム近辺には、そんな音のするものは何もないのだが、と思いながら、彼女は音のする方向へと向かった。

廊下の横に、向かって左がトイレ、正面が洗濯機のない洗濯機スペース、そして右側がバスルームになっていた。バスルーム、トイレ、そして正面の洗濯機スペースにも、何も異常は見受けられなかった。ただひとつおかしいことといえば、さきほどまで何もなかった洗濯籠が、横に倒れていたことだ。

あとでコインランドリーに持っていくために、洗濯機スペースに籠を置いていたのだが、それが倒れて、中にも洗濯物がすべて床の上に散らばってしまっている。

少し縦長の洗濯籠で、いっぱいいっぱいに詰め込まれていたせいで、倒れたのもなんだか分かる気がした。静江さんは洗濯物を拾って元に戻すと、再びパソコンデスクの前に向かい、メールをチェックし始めた。

すると、しばらくしてまたあの音がした。

バタン、バタン、ドテ。

また倒れたのかな。静江さんはもう一度確認してみると、やはり先ほどの洗濯籠が倒れて中身が外にぞんざいに出てしまっていた。

ああ、めんどくさい。また中身をしまっても倒れちゃうよね。

静江さんはそんな風に思い、今度は手をつけずに、再びパソコンデスクのところに戻った。

しばらくキーボードをカチャカチャとしていると、再び廊下からガタガタという音が響いてきた。まるで誰かが家の中に入ってきたような音だったのでびっくりしたが、すぐに音は収まった。人の気配もすぐに消えた。

びっくりして廊下へ走っていくと、倒れていたはずの洗濯籠が、なぜか中身も元通りにされて、そのまま綺麗に片付けられていた。

静江さんはびっくりしてしまったが、もっとビックリしたのは、洗濯籠の中から子どもの細い腕が一本、にょきっと伸びて、籠の縁を掴んでいたことだ。

それは真っ白くて、細くて、動いていた。

腕は洗濯物の中をうねうねと動き、何かをつかもうと必死になっているように見えた。

静江さんは悲鳴を上げて、そのままベッドの布団の中に入って泣き続けた。

その夜は何回も、バタン、ガタガタ、バタン、ガタガタ、という音が断続的に続いていた。まるで子どもが洗濯籠を倒してから、また元に戻すという行為を、ずっと続けている、そんな光景が夜通し頭の中に入ってきた。

朝になると、彼女は家を出てから塩をたくさん買ってきて、洗濯籠の周辺に何度も蒔いた。その場はそれで何もなくなったのだが、二三日もすると再びバタン、バタンという音が聞こえだし、静江さんは恐怖に震えながら日を過ごす事になった。

不動産屋に「あの部屋はおかしなことが起こるから、引越しをしたい」というと、変な顔もされずに他の部屋を紹介された。結局、半年でその部屋を出たという。

引越しをした静江さんは、すぐさま洗濯機を買い、洗濯籠も倒れないような低いものを買った。そして洗濯機と壁の間に挟んで、倒れないようにと工夫をした。おかげで二度と洗濯籠から子どもの腕が生えてくることはなかった。

だが、それから十年後。

大学も卒業し、銀行の窓口で働いていた静江さんは、お客さんとして現われたある女性と融資の事について話をしていた。出身地の話から大学の話になり、どこどこに住んでいましたという話から、偶然ではあるが静江さんが昔住んでいたあのマンションの話になった。

「あらいやだ、あなたはあのマンションに住んでいらしたの?」

「はい、かれこれ十年前ですけど」

「何か変なことはなかった?」

「変なことですか? どうして変なことがあるって思うんですか?」

「だってね、あそこ、幽霊マンションなのよ」とその女性は声をひそめて語りだした。

沖縄では八歳までの乳飲み子が死ぬと、その子は門中の墓に入れず、一定期間敷地の外に小さな墓を作って、そこに埋葬されるのがしきたりとなっていた。それを一般にアカングヮー墓(赤ん坊の墓)と呼んでいた。現在でも一部で行われているしきたりの一つである。

その集落では昔、マンションの建っている場所に乳飲み子の墓が固まって立てられていたという。かなり昔の墓だったので、その多くが所有者不明の墓だったらしい。

「工事するために、ぜんぶとっぱらっちゃって、骨は近くの空き地に埋めたらしいのよね。私見たのよ、骨を全部、洗濯籠みたいなものにつめこんで、作業員たちが延々運んでいくのよ。それ見ていると哀れで仕方なくて。だってみんな小さな骨なのよ」

静江さんは話を最後まで聞いていられず、銀行の窓口で怖さのあまり嗚咽してしまった。

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