首のない女(沖縄県) | コワイハナシ47

首のない女(沖縄県)

朝子オバアは今年で六十歳、浦添で昔ながらの商店を営んでいる。それこそ酒から缶詰からバナナまで、置けるものは何でも置いてある。客は主として近所の同年代のおばさんたちや、仕事帰りの馴染み客、そして店の外に置いてあるガチャガチャ目当ての小学生などだ。

だが一度、小学生でも主婦でもオジさんでもない、奇妙な何かが店にやってきたことがあった。

その日は沖縄の死者の正月であるジュールクニチの前日であった。沖縄では死者にも正月があり、そのためにクワッチー(ごちそう)を準備したりするのがならわしとなっている。

明日はジュールクニチだから店を早く閉めようとしていた午後七時ごろ、いきなり店の手動ドアがガラガラと横に勢い良く開いて、白っぽいミニスカートの女性が入ってきた。

ところが首から上がない。朝子オバアがびっくりして見つめていると、首のない女性は缶詰の棚の影にそろりと隠れてしまった。

「あんた、誰ね!」朝子オバアは人間ではない客がやってきた事に対して、無性に腹が立った。

だが相手は返事を返す様子がない。朝子オバアは手近にあったカッターナイフを持ちながら、ゆっくりと缶詰の棚に近づいた。すると首から上のない女性が、両手をだらりと下げながら立ち尽くしているのが見えた。

「出てけ、マジムン!」

カッターナイフで朝子オバアは首のない女性に勢い良く斬りかかって行った。と、女性の姿はかき消すようにいなくなり、朝子オバアは店内をくまなく探したが、それっきり女性の姿は消えてしまったようだった。

「出てけ、出てけ、二度とうちの敷居をまたくんじゃないよ!」

朝子オバアは店の外で塩をまきながら、何度も何度も怒鳴り散らした。

「この前、店に幽霊がやってきたけどね。ほら、売り物のカッターナイフで追い返してやったさ。幽霊なんて怖くないさ。幽霊なんて怖がっていたら、戦争の後生きてこれんかったからね」

朝子オバアは親しい客たちに向かって、自分が首のない幽霊を追い返した話を、自慢げに話して聞かせた。それからは、朝子オバアの店にこの世のものではない客がやってくることはなかった。

それから半年後、一人のオバアが店にやってきた。はじめて見る顔だった。自己紹介しながら、自分はユタみたいなことをしていますがねーと付け加えた。

「なんですかね。ユタに関わることなど、私は何もしていませんよー」ユタが大嫌いな朝子オバアは、攻撃的な調子でそのように答えた。

「あなたは沖縄の人なのに、ユタは信じていない?」

「むろん信じませんよ。さわれるものしか信じません。はい」

「あっきさみよー。あきれたお人だね」

「ユタなんて汚らわしいですよ。すいませんがね」

「じゃあ私の話す話も、信じなくていいんですけどね」

「はい、なんですかねー」

「ちょっと前のことだけれど、あんたの店に何か来なかったかね。見えるのは、首のない女の姿だけどね。そんなの、来なかったね?」

ああ、そうえいばそんなこともあったな、と忘れっぽい朝子オバアは、ぼんやりと思い出しながらも「そうですかねー」とあいまいな返事をした。

「来なかったかね?」

「さあ、どうですかねー」朝子オバアはとぼけたふりをした。

「ところで、あんた、孫を亡くしているでしょう。二十代前半ぐらいの」

「なんでいきなりそんなことを言うか?」

朝子オバアはその言葉に思わずドキッとしてしまった。

朝子オバアの初孫のマキコさんは、数年前に留学先のアメリカで、急性白血病で亡くなっていた。そのことをいきなり思い出してしまったのだ。

「そのお孫さんがジュールクニチにオバアに逢いに来たのに、どうして刃物持って襲いかかるかね? 彼女はかくれんぼのつもりだったって言っているよー。あー、もうイミクジわからん。あんた、おかしーさー」

ユタはそれだけ言い残すと、買い物もせずに店から出て行った。

ああ、あれが孫ね?

そういえば姿かたちが孫にそっくりだったさー。

子どもの頃から私を見ると、いつもかくれんぼをしよったさー。

申し訳ないことをしたねーと、店を閉めてから朝子オバアは一人で号泣したという。

「マキコ、もう一度オバアのところに来てくれないかねー」

だがそれ以来、二度とマキコさんはオバアの元に現われてはいない。

毎年、ジュールクニチになると、オバアは悲しくなって、そのことを切々と思い出すことがあるという。

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