タバコ銭(沖縄県那覇市) | コワイハナシ47

タバコ銭(沖縄県那覇市)

死は前触れもなく突然やってくる。その夜は那覇市にあったK公民館の守衛、島袋さんの元にやってきた。

島袋さんはとても真面目な性格で、本人自身もサーダカーであったらしい。いろんな雰囲気や予兆等を頻繁に感じとるほうだったのだが、その夜だけはその特殊な感覚は何ものかによって隠されていたに違いない。

夜警の最中、島袋さんは公民館二階の廊下の途中で倒れてしまい、朝になって発見された時にはすでにこと切れていた。死ぬまで懐中電灯を握りしめ、胸ポケットに入れていた数百円の小銭だけが、朝焼けのなか、きらきらと廊下の上で光っていたという。

おそらく見回りの最中に脳梗塞になってしまったという話であった。高齢であったため、血圧が高いのを本人も気にしている節があったので、事件性はなく、勤務中の事故ということで処理された。

日頃から「自分は血圧は高いけど、タバコだけはやめられんさね」というのが口癖だった島袋さんの柩の中には、同僚たちから大好きだった銘柄のタバコが何カートンも供えられた。

そして葬儀も無事に終わった翌日のことである。島袋さんと同僚だった守衛の大城さんが公民館の勤務についていた。その日も朝七時には出勤して、入口の守衛室に座っていると、昨日火葬されたばかりの島袋さんが閉まっているドアを通り抜けてすーっとやってくる。

「お、おおう、島袋さんじゃないか?」

大城さんがそう叫んでも、島袋さんはうつむいたまま一言もしゃべらずに、自身が事切れていた二階の廊下に向けて階段を昇って行った。

「ちょ、ちょっと、島袋さん!」

そう叫びながら大城さんが守衛室を出た時には、島袋さんの姿はなかった。大城さんはぶるぶると震えながら、大声でしばらく叫びつづけた。

さっそく大城さんは、八時過ぎになってやってきた公民館の館長にその話をした。島袋さんの葬儀の次の日であったので、館長は露骨に嫌な顔をした。

「昨日葬儀した人が、次の日に公民館に守衛しにくるなんて、あんた何てことをいうつもりかね」

「すいません。でもはっきりとこの目で見たんです」

「あんたも、もしかしたら視える人ね?」館長は大城さんにそんなことを聞いた。

「いえいえ、私は視える人じゃありません。でも今日だけは、確かに視えたんです」

「もう少し様子を見ましょう」と館長はいった。

大城さんは、もしかしたら見間違いか夢を見ていたのかもしれないと思い、その日は館長のいうことを信じて、そのまま帰った。

次の日も、大城さんは昼勤であった。朝早くに公民館に着くと、守衛室に座りながら、朝の業務をこなしていた。

すると、公民館が開く前に、シャッターの閉まっているはずのドアをするりと抜けて、死んだはずの島袋さんが陰気な足取りでやってくる。

「ひゃあ! 島袋さんよ! 死んでるはずさ!」

そんな大城さんの悲鳴に気づかぬように、島袋さんはゆっくりとした足取りで階段を一歩、一歩昇って行く。やがてその姿は階段の踊場付近で空間に吸い込まれるようにかき消されてしまった。

それから一週間以上、朝になると島袋さんは公民館に現れては、二階へ上る階段の方へと消えて行った。

「館長、どうにかして下さい!」大城さんはもう耐えきれなくなって公民館の館長に泣きついた。「毎朝この職場に来るのが怖くて仕方がない。何とかしてもらえませんか?」

そう相談された館長も、どうしていいか分からなかった。ユタを呼ぼうかとも思ったが、ここは市の施設なので、もし呼んだことがばれたら、ちょっとした問題になるかもしれない。館長は守衛の大城さんと一緒に対策を練ることにした。

「どうするべきかねえ」

「ユタを呼ぶしかないんじゃないですか…」

「あんた、知り合いにユタ事する人はいるね?」

「糸満の親戚が確か視える人だったはずですが…」

守衛室の中でぼんやりとそんな会話をしながら、館長がふと守衛室のカウンターを見ると、心当たりのない数百円の小銭が隅っこのほうに積んである。これは何のお金ですかと館長が訪ねると、大城さんはこんな話をした。

「これは島袋さんの胸ポケットにあった小銭です。多分タバコ銭ですね。島袋さん、ヘビースモーカーだったから。死んだ時にポケットから出て、廊下の上に散らばっていたんです。すっかり忘れてしまっていたな」

館長はその時、何かひらめいたことがあったという。

「ああ、もしかしたらこれかもしれないな」と館長は言って、すぐさま守衛を派遣している警備会社に連絡をした。そして警備会社を通じて、小銭を死んだ島袋さんの遺族に返してもらった。

それ以来、島袋さんはぴたりと朝の公民館に現れることはなかった。

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