墓から漂うヒラウコーの香り(沖縄県) | コワイハナシ47

墓から漂うヒラウコーの香り(沖縄県)

山入端さんは、いわゆる墓の工事業者である。沖縄の伝統的な墓を作ったり、改築したり、移動させたり、そんなことを日常業務として行っている。それは実に淡々とした作業だという。

「だって私たちが相手をするのはコンクリートですよ。私たちは死者を供養するのではなくて、それを入れる箱を作っているだけですから」

沖縄の墓は本土の墓と比べて格段に大きい。まるで一軒の家が建つくらいの敷地のものから、運動場ほどもある大きさの墓まである。

門中と呼ばれる親戚一同の骨を収容するわけだから、ある程度の大きさがないといけない。墓の内部は部屋になっており、そこには先祖代々からの骨が、ジーシガーミと呼ばれる骨壷の中にきちんと収められている。

そして墓には分厚いコンクリート製の蓋がついていて、納骨の時などにはそれを外すようにできている。門中に屈強な男手がいれば、彼らが蓋を自ら外すのだが、門中によってはそのような男手がたまたまいない場合がある。

そんなときには山入端さんの会社の者が出かけていって、蓋を外してやるという。

「まあサービスの一環ですかね。沖縄は横の繋がりが強いもんだから、そういうサービスをしていると、またうちに頼んでくれるのではないかという淡い期待もあるんですが」

ある時、北谷の門中墓の蓋を外して欲しいという依頼が来て、その日はたまたま山入端さんと同僚の嘉数さんの手が開いていたので、二人で現場に向かった。

墓に着くと、現場にはオジイとオバアしかいなくて、若者は誰もいないようだった。山入端さんは同僚と一緒になって、針金のような器具を使って、墓のコンクリート製の蓋を徐々に外していった。

すると次第にきつい線香の匂いが漂ってきた。沖縄の線香はヒラウコーといって六本が束になった線香を使うのだが、それがまた臭いのである。その匂いが、なんと墓の中から漂ってきた。

「最近、墓の中に誰か入りましたか?」山入端さんは聞いた。

「いいえ、誰も」

「ヒラウコーの臭いが中からしますよ」

「古いものじゃないですかね」

やがてコンクリートが取り外された瞬間、墓の内部からもくもくとした煙が外に漏れた。間違うはずのない、ヒラウコーの臭いも漂ってきた。

あとで墓の内部に入ってみたが、どこにもヒラウコーを焚いた後などない。煙が出るのもおかしなことだった。

おかしいな、と思っていると、いきなり肩をポンと叩かれた。振り返ったがそこには誰もいない。それから何度も、誰かが山入端さんの肩をポン、ポンと叩くのである。

嘉数さんにそのことを話すと、彼も誰かに叩かれ続けており、「実は今も叩かれているんだが」と蒼白な顔でそう答えた。

「気のせいかね」

「いや、気のせいじゃないな」

二人は墓場の内部で、どうしたものかと考えた。

そうこう考えているうちにも、誰かが二人の肩を「ぽん、ぽん」と叩く。振り向くと誰もいない。そんなことが繰り返された。

そこで、山入端さんが、試しと自分が持っていた新品のタバコを一箱取り出してから、こんなことを言った。

「あのー、すいませんが、私たち二人は門中のものじゃないんで、お墓の工事業者なんです。これからお墓の中を掃除して、門中の方をお招きしますから、どうかよろしくお願いします。これはどうぞ、受け取ってください」

嘉数さんが持っていた煙草を一箱、墓の内部にお供えしてやると、それっきり肩は叩かれなくなった。

肩を叩く何者かは去ったのだが、それから最後まで、墓の内部からはヒラウコーの臭い煙だけが、ときおり思い出したかのようにモクモクと晴れた空に向かって上がり続けていたという。

それを見て「先祖が喜んでいる」という親族もいれば、「いや、あれは何か変なことが起こる前兆だよ」という親族もいた。彼らに肩を叩かれた話はしなかったが、帰り際、一人のオバアにこんなことを言われた。

「あんたたちよ、先祖がタバコありがとうって言って、喜んでいるさ。いい仕事をしたねー。また何かあったら、あんたがたに頼むさ。私の葬式のときも手伝ってくれるかねー」

「すいませんが、オバア、私は墓の工事業者だから、葬儀屋とは違いますよ」

「えー、でも墓に詳しいさ」

「いえいえ、オバアは長生きしてください。葬儀屋の世話になんか、ならんように」

それ以来、墓の中で何かあったときには、かならず煙草を一箱、御供えすることにしているので、二人とも必ず持ち歩いているのだそうだ。

今日もどこかで、山入端さんは墓の蓋を開けながら、煙草を一箱、奥まった場所にそっと置いているのかもしれない。

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